サラワク北部Kemena/Tatau水系での共同予備調査を終えて 石川 登 / 祖田 亮次
サラワク北部Kemena/Tatau水系での共同予備調査を終えて
石川 登 / 祖田亮次
「文理融合」をモットーにすることは容易です。しかしながら、「文理融合」さらには「分野横断的」といった言葉が、すでに一種のクリシェ(cliché)、あえて厳しい言葉を用いれば、陳腐なお題目になっているのではないか —— このことを自分たちに問いかけながら、私たちプロジェクト・メンバーは調査計画をたて、意見を交わしてきました。しかしながら、このような問題を机上で延々と議論していても、なかなか拉致があきません。さて、どうすれば良いのか。 まずは旅にでる。飲食を共にし、ワニを恐れながら川で並んで水浴し、小さなボートで背を丸め、長時間灼熱に焼かれながら移りゆくランドスケープを共に眺め、ロングハウスでは同僚の質問と人々の答えをしっかり聞き、専門が異なってもノートをとる。面白いと思ったこと、考えたことを可能なかぎり共有する。このようなことを日々繰り返してみる —— 本科研調査では、参加調査者が一年に一度、一同に会して共同調査をすることを、申請書作成段階から年次計画に明記していました。正式な調査許可取得前ということで、あくまでもパイロット・スタディの域をでるものではありませんでしたが、2010年8月15 日から25日にかけて、本プロジェクトによる初めての予備共同調査をサラワク北部ビンツル省の流域社会で行いました。プロジェクト・メンバー外の参加者も得て、総勢15名のエクスカーションとなりました。以下は、その報告です 今回の共同予備調査は、大きく3つのパートに分かれていました。旅行日程と参加者、各パートの概要は以下の通りです
8月15 ~ 18日: Kemena/Jelalong川流域
参加者: 石川、鮫島、藤田、 徳地、 Badenoch、 定道、長岡、佐久間、 (以上、京都大学)、内堀 (放送大学)、奥野 (桜美林大学)、祖田 (大阪市立大学)、大竹 (モイ)、渡壁 (琉球大学)、Logie (サラワク森林局)
8月19 ~ 21日:Anap-Muput川流域伐採林
参加者 :石川、鮫島、藤田、定道、内堀、奥野、祖田、Hon (京都大学)、大竹(モイ)、市川哲 (立教大学)
8月23 ~ 25日 : Kakus/Bukit Sarang洞窟
参加者 :石川、鮫島、藤田、定道、佐久間、Hon、大竹、市川哲
第一部の Kemena/Jelalong 流域調査では、Jelalong 川中上流のロングハウスで2泊 (初日はプナン・イバン・華人の混成集落、2日目はイバン集落)、Tubau のバザーで1泊しました。
まずは当該地域の雰囲気を皆で体感することを目的としましたが、帰路は、河川の水質・地形を観る班 (ボート)、植生や鳥類分布を観る班 (ランドクルーザ) など、いくつかの班に分かれて河口の町Bintulu に向かいました。
Kemena/Jelalong水系では、イバン、プナン、カヤン、華人、ヴァイ・スガンほかの民族が混淆している社会状況 (複合エスノスケープ) や、焼畑地・休閑二次林・オイルパーム園・コショウ畑・伐採林などの多様な植生 (混合ランドスケープ) を見ることができました。
第二部のAnap-Muput流域では、環境へのインパクトを抑制した伐採活動を行っているZedtee 社の案内で、伐採現場や伐採キャンプのオフィス、伐採地周辺のロングハウス、Bukit Kana Field Station などを訪問し、ロングハウスと同社の管理するField Station施設で、それぞれ1泊しました。Anap-Muput流域では、木材伐採の具体的な方法を見ることができたほか、ロングハウス住民が当該地区の伐採活動についてどう考えているのかについても、話を聞くことができました。また、Field Station では、夕食後にセミナーを開き、Zedtee 社のlow impact logging施行について学ぶことができました。
第三部のKakus 調査は、Bukit Sarang の洞窟にあるアナツバメの巣の観察とこれを所有するロングハウスの住人への聞き取りを主な目的としました。ここでは、アカシアの植林を行っている Sarawak Planted Forest 社および Grand Perfect 社の協力を得て、Bukir Sarang Field Stationに宿泊し、洞窟踏査を行いました。前日までの洪水の影響で洞窟内にも水が流れ込んでおり、歩行は困難を極めました。また、洞窟を通り抜けてBukit Sarang の山頂まで登ることができました。最終日には、Sarawak Planted Forest 社のアカシア植林地を案内してもらい、大規模なナースリーを見学した上で、植林事業に関する説明を受けました。
これらのフィールド・トリップでは、異なる分野の研究者たちが 現地の状況を実際に見ながら、今後の調査研究の可能性について議論することができ、非常に有意義でした。2011年度にも、さらに周到な計画をたてて、参加メンバーのフィールド体験の共有、分野横断的なコミュニケーション、そして新しい学際研究のフィールドからの発信の契機をつくっていきたいと考えています。