Anap-Muput Forest Management Unit 訪問 小泉 都

Anap-Muput Forest Management Unit 訪問

小泉 都 (総合地球環境学研究所)

 私はこれまで生態人類学ないしは文化人類学の分野の研究を行ってきた。ボルネオの狩猟採集民の植物についての知識をとくに詳しく研究しているので、民族植物学が専門と自己紹介することもある。その研究対象の人々が利用してきた森林が、いま急速に開発されている。想像してみてほしい。あなたがいつも利用している食料品店が、建物に使われている金属が必要だからと重機で破壊されていき、食料品店に頼っていてはだめと言われることを。開発を完全に止めるべきだというつもりではない。それはたぶん開発者との果てしない対立へとつながってしまう。では、いったい何ができるのか? 破壊的ではない開発は可能か? そんな思いから専門分野とは違う研究を、鮫島弘光さんの助けを借りながらこのプロジェクトで行うことにした。

 研究の目的は、熱帯雨林の植生を広域で簡便に評価する方法の開発である。哺乳類については、鮫島さんがこれをすでに確立しつつある。動植物の状態を広域で把握することができれば、森林開発を適切に計画するうえで大きな助けになるだろう。ここで問題になるのは、熱帯雨林には非常に多くの種の植物があるのに、熱帯雨林の植物の専門家は多くはないということである。まずは、その問題をクリアしなければならない。

 そんな問題意識をもって、2011年3月9日から19日まで、Zedtee社が操業して木材伐採を行っているAnap-Muput Forest Manegement Unit (AMFMU)を訪問した。ここは、森林認証を受けている現在はサラワクの中で唯一の森林施業区となっている。この認証はMalaysian Timber Certification Council (MTCC)によるもので、その基準は甘いと批判されることもある。しかし、その認証ですら、サラワクではAMFMUしか受けていない。ここで何かできなければ、他の伐採施業区の未来も思わしくないだろう。  今回の訪問では、植生調査のプロットづくり、サンプリングを伐採キャンプの人たちに試行してもらい、所要時間、サンプリングエラーなどを確認した。(写真①、②)そして、研究者なしでもきちんと調査できるという手ごたえが得られた。
① 植生調査の模様 / Plot work: collecting a leaf ② 調査木とサンプルの葉 / A surveyed tree and its sample leaf
 調査に参加してくれたのは、普段から伐採や植林事業のための樹木サーベイを担当している人たちである。これは、この計画のミソと言っていいと思う。つまり、サラワクには森林での活動に慣れた人材が多く存在するのだ。最小限の説明で、調査内容を理解し、的確に作業してくれた。(本当のところ、力もなく、目も悪い私一人では調査は不可能だ。)次の訪問では、サンプル(調査木から採集した葉)のソーティングの訓練を行いたいと考えている。森林での作業ほど順調にはいかないかもしれないが、伐採キャンプでパラ・タクソノミストが育ってくれるように頑張ってみたいと思う。

 訪問の主目的はこのように手法の開発であったが、サラワクの木材伐採の現実を知るよい機会でもあった。1990年代なかばに一度伐採し、今年から来年にかけて二度目の伐採を行う予定の森林を、伐採前の全木(胸高直径30 cm以上)調査に同行して見学した。(写真③、④)森林が小さいなと感じた。大きな木でも20m前後といったところで、巨木と呼べるようなものはほとんどない。樹木のサイズ分布の点では、前回の伐採から森林が回復しているとは言えないだろう。今の状況は、大きな木があった一度目の伐採とは違い、小さめの木でなんとか利益を確保しているといったところだろうか。一部の樹木は果実が動物のエサになるということで残されるが、樹上性の動物たちの生息場所として十分なのかは分からない。森林の大きさをある程度維持できるような基準を設けることができればよいのになと思った。
③ 胸高直径の計測 / Measuring a tree at DBH ④ 保護種の木にスプレーで印を付ける  / Tugging protection trees with paint spray before logging operation
 かつて通常の伐採が行われたゆえに森林の樹木が小さいとはいえ、この森林に暮らす動植物はたくさん存在するし、トラクターの入るトレイルの破壊度などは比較的低いのではないかと感じた。多くの動植物が生きていける森林は、森林に生きる人々の生活を支えられる森林でもある。厳しい条件ではあるが、商業的な森林利用と、森林の機能の回復が両立する道が開けることを願う。

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