本プロジェクトの概要  プロジェクトリーダー:石川 登 2010年4月

 現在、東南アジア島嶼部では、石油に代わる有機資源としてのアブラヤシ・プランテーションが急速に拡大しています。
たとえば、マレーシア、サバ州やジョホール州では、地表の2割から4割がプランテーション化しています。このような大規模モノカルチャーによる収奪的な開発により、生態系の劣化ならびに地域社会の生存基盤の脆弱化が進んでいます。

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 現在、プランテーション開発が集中する熱帯域は、地球における水・熱環境の駆動域であり、バイオマスの再生にかかわる最も重要な地域です。
 この熱帯の生態系と地域社会の生存基盤確保は、とりも直さず、温帯に住む我々をふくむ地球の全体環境と人類の生存基盤の確保を意味します。

 しかしながら、いま目の前で進行する開発を私たち研究者が止めることは困難です。本研究では、熱帯に拡大するプランテーションを所与とした社会生態モデル、プランテーション状況化での熱帯バイオマス社会のあるべき姿を構想することを目的とします。

推進する理由

 私は平成12年から約10年にわたり、本研究の調査地クムナ川流域で個人調査を行ってきました。この流域はボルネオ島北部で熱帯雨林がもっとも優勢な地域の一つであり、焼畑、狩猟採集に基づく自然経済が保持されてきました。
 しかしながら、同地は、2000年代初頭より、東京都約2個分の広さをもつプランテーション開発地に指定され、熱帯雨林はアブラヤシ農地とアカシア植林に急速に転換されています。

 熱帯の生態環境に依存した自然経済とプランテーション経済のせめぎあう地域で実証的な調査を行い、持続可能な「社会システム」と「生態システム」の共存モデルを構想することが、私にとり緊急の研究課題となっています。
 いままでの私個人のフィールドワークをバージョンアップし、多言語編成による文理融合型フィールド科学の設計し、各分野の専門家に私が知りたいことを調べていただく、というのが本調査研究の基本的性格です。

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独創性

 本研究の独創性は、分析スケールの多元的な設定と、これらの有機的接合による総合的な動態理解にあります。本研究は、ローカルとグローバルをつなぐ現場型地域研究の一つの統合的モデル構築を目指します。基本的には、4つの分析のニッチを設定しています。生態系連環に関する調査では、在来型とプランレーション型植生からなる混合ランドスケープにおける生態現象の解明、社会文化調査では、多文化共生社会における生業形態や社会的ネットワークの理解をとおして、地域経済再編のモデルを構築します。これらの現場におけるフィールドワークは、プランテーション型バイオマス社会のモデルの創出を目指すものです。現場から造られたモデルは常に、より上位の社会経済システム、すなわち国家市場と全球的システムの分析による再検討の対象とされます。ミクロ、メソレベルの野外調査は、温帯と熱帯をつなぐ資本移動、技術移転、制度設計に関するナショナルとグローバル・レベルの分析に実証的なデータを供給します。

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革新性

 本調査では、一つの「流域」(すなわち集水域)を分析単位とし、自然科学と社会科学の研究者が同じ時間と空間を共有しながら研究を行います。生態学者、経済学者、人類学者がジャングルの村落で同じ釜の飯をいながら意見を交換することになります。クムナ川流域は、河口から内陸部まで約250キロ、川筋はサラワク州で公式に認定されたほぼ全ての民族集団、そしてそのランドスケープはアブラヤシ、アカシア、第一次森林、第二次森林、焼畑耕作地などから構成され、まさに社会生態学的にサラワクのミクロコスモスを提示する調査地域ということが可能です。

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研究計画 (1)

 ローカル・レベルでの分析は、生態系連環と社会文化連環に関するチームが行います。動物生態学、森林生態学、水文学の専門家は、アブラヤシ、アカシア植林、天然一次林、二次林、焼畑などから成る混合ランドスケープにおいて、4つの調査プロットを設定し、生物多様性の空間構造、森林・河川の物質循環(栄養塩や懸濁物質)を行い、水文学的調査では、数十キロ平方のメソ・スケールにおける海洋・大気・森林・河川間の水循環の分析を行います。文化人類学や地理学の専門家は、世帯別生業分析のために調査プロットに隣接する村落を対象とした全戸調査を行うとともに、小農によるアブラヤシやゴムなどの商品作物の流通を通して形成される社会関係の分析を行います。

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研究計画 (2)

 ローカル・レベルにおけるバイオマス社会の好適モデルは、さらにナショナルとグローバル・レベルでの商品、資本、技術、制度の温帯と熱帯を架橋した適正な関係性に支えられなければならない。国家市場レベルの分析では、とくに生産地の生態環境の保全を目指したアブラヤシ認証制度による新しい資源価値の創出のロードマップを模索し、さらにグローバル・レベルにおける資本蓄積や労働移動、バイオマス資源化のための技術と制度の革新、さらにはカーボン・シンク(二酸化炭素吸収源)としての熱帯林保全の国際的制度設計を検討します。

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年次計画

 年次計画は次のとおりです。自然科学と社会科学的調査と様々なスケールの分析を有機的にすりあわせるために、調査地の相互訪問のルーティン化、国内研究会ならびに国際ワークショップでの進捗報告とアドバイザリーボードへの報告を義務化し、評価と提言をうける仕組みの維持を図ります。

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波及効果と普遍性

 最後に本研究の成果波及効果と普遍性について言及してまとめに代えます。本研究は、プランテーション状況下における「社会システム」と「生態システム」の共存のあり方をローカルからグローバルにいたる分析スケールから明らかにするものです。多様な学問分野と基本的調査ツールとしての多言語能力を特徴した本研究は、実証的な地域研究の最先端モデルであると同時に、地域研究の極めて基本的性格を持っています。一つの調査の「場所」にこだわりつつ、多元的な分析スケールから検証することは、すべての地域研究の王道でもあります。この意味で、本研究のもつ調査デザインは、後に続く多くの学際的地域研究のひとつのモデルとなり、異なる地域での調査にひろく応用可能をもつものと考えられ、ひろく熱帯におけるプランテーション型バイオマス社会設計のために一つのプロトタイプを提供するものであります。

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