Keresa社~Sungai Asap~Jelalong流域 祖田 亮次

Keresa社~Sungai Asap~Jelalong流域

祖田 亮次(大阪市立大学文学研究科)

 今年の夏も、サラワクでの共同調査を行ったが、現地ではいくつかのグループに分かれて行動することもあった。おおよそのグルーピングを示すと、石川・奥野・加藤・市川哲・Jayl Langub・Daniel Chew・祖田を中心とする民族間関係の調査グループ、徳地・甲山・福島・鮫島・Logie Semanからなる水文・水質調査のグループ、生方・定道によるプランテーション調査グループなどである。このほかにも、小泉・鮫島・JasonによるAnap-Muput地区の生態調査や、鮫島・加藤・市川昌による同地区の社会調査、内堀・加藤によるKakus調査などもあった。ここでは、石川・祖田を中心とした活動の報告を行う。
 8月12日(金)に、石川・鮫島・生方・定道・祖田が、土地開発企業でRSPO認証も保有しているKeresa社の本社ビル(Kuching)を訪問し、社長のGraeme Iain Brown氏をはじめとする幹部の前で、科研プロジェクトの説明を行うとともに研究打ち合わせを行った。これによって、Keresa社が運営するオイルパーム・プランテーション内での調査が認められ、13~14日にBintuluのプランテーション・サイトを視察することができた。ビントゥルからは、徳地・甲山・ジェイソン・福島・加藤が合流し、徳地・福島は操業地内で水サンプルの採取も行った。その後、いくつかのグループに分かれて行動したが、生方・定道は15日もKeresa社で資料調査を継続する一方、加藤・祖田は周辺のロングハウスで、小農によるオイルパーム生産の動向について調査した。

写真1 Bintulu近郊のKeresa社操業地内にある搾油工場 / An oil mill on the property of Keresa company 写真2 オイルパームを持つ石川代表
オイルパームの一房は20~40kgと非常に重い。/ Prof. Ishikawa held a bunch of oil palm fruits. It usually weighed 20-40kg.
写真3 Keresa社操業地・屋内施設でのディスカッション
TQM(総合的品質管理)マネージャーのAbdul Aziz氏によって、パワーポイントを使った操業地の概要説明が行われ、それに続いて活発な質疑応答が交された。/ Photo3 Having a discussion and Q&A with Keresa's Total Quality Management manager, Mr. Abdul Aziz 写真4 Keresa社操業地内でのAbdul Aziz氏による現地説明 / Photo4  Mr. Abdul Aziz describing the operations on the site of Keresa company 写真5 Keresa社操業地周辺のロングハウスで独自にオイルパームの苗を育てている住民  収穫した果実はKeresa社の工場に売却している。Keresa社による研修コースなどにも積極的に参加している。/ Photo5 A longhouse resident near Keresa company who raises a seedling of oil palm. He sells his oil palm to the company and eager to participate the company-sponsored study sessions.
 2010年度は木材伐採企業のZedtee社とアカシア植林企業のSarawak Planted Forest(SPF)社の操業地の視察を行い、各操業地内での調査について同意を得ることができたが、今年はオイルパーム操業地での本格的な調査を開始することができ、大きな進展を見ることができた。今回のKeresa社との合意については、Sarawak Oil Palm Plantation Owners Association(SOPPOA)会長のMelvin Goh氏も、プランテーション内での外国人による調査が認められたことは画期的で、今後の産学共同調査のモデルになりうると評価している。  17日からは、石川・奥野・市川哲・加藤・祖田に加えて、マレーシア・サラワク大学(UNIMAS)のJayl LangubとDaniel Chewも参加しての共同調査を行った。訪問したのは、Sungai Asap、Suai、Sebauh、Tubau、Jelalong川上流域などで、随時、分かれたり合流したりしつつ、また19日からはLogie Seman(元・森林局)の参加も得て、共同調査と各自の調査を並行して行った。具体的には、Jayl・奥野・加藤は狩猟採集民を中心とする先住民の生業・生活あるいは自然認識に関する調査を、Daniel・市川は森林産物の流通をめぐる華人-先住民関係に関する調査を、石川・祖田は焼畑民と狩猟採集民との関係性に関する調査を行った。Logieは市川の調査をサポートする傍ら、木材伐採に関わってきた現地キーパーソンのライフヒストリーを収集した。
写真6 Sungai AsapのKayanのロングハウス  Penanの採集した森林産物をミドルマンとして市場に流していた頃の話を聞いた。/ Kayan longhouse at Sungai Asap: could hear the stories back then bought forest products from Penan and distributed them to the market.
 調査参加者の関心が少しずつオーバーラップしており、また、華人、Iban、Penan、Kayanといった多様な民族やアクターからの視点で議論を交わすことができたのは、大変有意義であった。
 24日にはいったん解散し、奥野はLong UrunでのPenanの調査、市川はBelagaでの華人コミュニティの調査、祖田はRajang川流域での河川調査を行うため、Bintuluを離れた。石川はKuchingに戻り、サラワク大学で新たなフィールド・ステーションを設置するための協議・調整を行った。
写真7 Jelalong川流域の森を歩く  河畔林伐採の現場やオイルパーム・プランテーションの造成地などを見てまわった。/ Photo7 Walking about the forest near Jelalong River: witnessed logging site along the river and developed land for oil palm plantation. 写真8 Jelalong川流域Rh.Udau付近の森で地元の案内者と記念撮影すぐ近くにオイルパーム・プランテーションが造成されつつある。/ Photo8 At the forest near Rh.Udau with local guides. An oil palm plantation is under way in this area. 写真9 Jelalong川流域Rh.Ketiでの聞き取り調査
人間や動物のDeath Name(喪名)の体系について聞くことで、Penan社会におけるヒト-自然関係が見えてくる。/ Photo9 Making  an interview with the residents of Rh.Keti: their intriguing story of Death Name unveils relationship between  human and nature in Penan society. 写真10 Sebauhの町で華人の元トレーダーへの聞き取り調査
華語、福建語、英語を交えての調査で、華人トレーダーたちの先住民との関係や「なわばり」意識などについても話を聞くことができた。/ Photo10 Interviewed an ethnic Chinese ex-trader man using Mandarin and Fujian and English
 今年の共同調査は、昨年度のように全員そろって行動するのではなく、本格的な調査を行うためにいくつかのグループに分かれながらも、Bintuluのフィールド・ステーションを基点に随時合流して、相互に状況報告をしあったり、部分的に共同調査を行ったりするというスタイルを取った。そのため、非常に複雑なスケジュールを組まざるをえず、なおかつ現地での細かい予定変更も頻繁に発生したが、鮫島氏の周到なアレンジによって、各自が充実した調査活動を行うことができたと思う。また、このような調査を行うにあたっては、機材やサンプルの保管場所としても、情報交換の拠点としても、フィールド・ステーションの存在がきわめて効果的であると実感した。

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