2011年度プロジェクト全体会合
2011年度プロジェクト全体会合
2012年1月27-28日 京都大学 東南アジア研究所 本科研プロジェクトの全体会合を2012年1月27、28日に京都大学東南アジア研究所で行い、これまでの研究の進捗状況において情報交換を行った。またサラワクでの調査経験の長い田中壮太氏(高知大学農学研究科)と酒井章子氏(地球環境学研究所)にアドバイザーとして出席していただき、プロジェクトの現状についてコメントをして頂いた。 演者と題目は以下のとおりであった。 石川登 : 「サラワク北部流域調査進捗状況」 鮫島弘光 : “Progress report” 藤田素子 : “Land use and diet of Swiftlet Implication to sustainable bird’s nest production” 徳地直子/福島慶太郎/鮫島弘光:「サラワク州の河川水質特性-土地利用指標としての河川水質」 福島慶太郎/徳地直子/鮫島弘光: “Downriver change in water quality in Kemena and Tatau basin” 市川昌広:“Depopulation and aging in rural areas in Sarawak” 祖田亮次/加藤裕美:“Oil palm smallholders in Tubau, Bintulu” 生方史数:“Plantations and smallholders in oil palm production” 定道有頂:“Life cycle Co2 emissions in CPO production of Keresa” 小林篤史:“The development of Sarawak trade network in the 19th Century Quantification by trade statistics of Sarawak and Singapore” Wil de Jong:“Forest conservation and International climate policy” 内堀基光:“Land resources and ethnic relations in the Kakus/Penyarai Basin” 加藤裕美/市川昌広/鮫島弘光/祖田亮次:“The alternatives of local people’s subsistence activity in Kemena and Anap River basin” 市川哲:“Variation of the ethnic Chinese communities in Kemena-Jelalong Reverie system: From the view of environmental utilization” 奥野克巳:「ジェラロン川流域のプナンにおける人と自然」外部評価 サラワクでの研究歴が長く、またそれぞれ文理融合型の研究を推進・実践されてきた、田中壮太氏(高知大学・土壌学)と、酒井章子氏(総合地球環境学研究所・生態学)をお招きして、本プロジェクトの外部評価をお願いしました。 両氏からは、個別の研究発表に対しても積極的な質問やアドバイスをいただくと同時に、全体を通しての総評という形でもお話いただきました。さらに、文書の形での評価書の作成・提出もお願いしました。2日間にわたる会議への参加、各発表内容に対する建設的なコメント、さらに評価書の作成など、大変な作業をお引き受けいただきましたこと、深く感謝申し上げます。 いただいた批判やアドバイスはいずれも非常に有意義で、今後のプロジェクト推進に大いに参考にさせていただくつもりです。なお、各メンバーの個別の研究課題についてコメントをいただいた部分もありますが、紙面の都合上、ここでは全体に関わるものを中心に抜粋・要約し、箇条書きの形で列挙させていただきます。 プロジェクトの概要・全体像について ●グループでの現地調査、互いの調査地の案内など、文理・異分野融合の推進のために、各自が相互の連携を意識している姿勢はうかがえる。しかし、同じ調査地上での個別の研究という印象も受ける。各研究者の連携の概要説明・ポンチ絵などが必要であろう。 ●プロジェクト全体として、具体的にどのようなゴールを目指しているのか、分かりにくい。申請書に書かれていることとは別に、より具体的にリーダーとして、何をしたいのか、どのような問いに答えようとしているのか、何ができると考えているのか、という見通しについて、十分に語られていないのではないか。 ●土地利用改変に関する面的な広がりについては意識が共有されている。一方で、時間軸の捉え方(定住履歴、農業変容、土地改変史など)については統一性が欠ける。また、過去・現在の分析のみならず、将来像をどう描くのか、今後、整理する必要がある。 会議の内容・雰囲気について ●研究発表では、専門外の初歩的な質問や、的外れかもしれない質問も許容される雰囲気があったことは良かった。ニューズレターの記事も、互いの関心の理解やプロジェクトの状況を確認するうえで役に立っていると思われる。 ●全体会議では、プロジェクト全体でどのような計画、目標を設定しているのか、変更点や諦めた点も含め、どこまで達成可能と考えるのか、一年に一度、リーダーからの具体的な説明があった方が、各メンバーは自分の研究の位置づけや貢献度について理解し、安心できると思われる。 文系研究者の課題 ●ビントゥルのような定住の歴史が浅い場所において、焼畑技術のあり方、伝統・文化の消失といったことをどこまで議論できるのかも再考すべき。中央カリマンタンのように、商品作物(例えばゴム)の栽培を前提として、陸稲栽培と組み合わせている事例もある。 ●文系の研究については、経済的評価や社会学的検討はされているが、理系との連携のためには農林業に関する情報の収集と提供を強化すべきである。とくに、水系の養分動態やライフサイクルには、土地利用・転換の変遷,森林伐採や植林地造成の方法、肥料や農薬使用などの管理法に関する情報が有効であろう。 ●文系研究者は、環境や農業の記述が一般的な話に終始していたり、環境条件の異なる別の場所での既往研究の知見をそのまま使っていたり、聞き取りの結果の羅列になっていたりすることが多い。 理系研究者の課題 ●発表を見る限り、理系の研究課題では、土地改変への問題意識は見えるが、人の顔や現実の農林業との関連付けが見えにくい。 ●理系研究者の多くは、調査地選定の際に、地形や植生などの状況を考慮するが、農地・農園の存在や、その所有者の社会・経済的位置づけ、所有者から見た土地・作物の重要性なども、調査地の選定基準として必要になるはず。 ●理系研究者は、統計情報へのアクセス方法が分からなかったり、インタビュー技術が低かったりする。各省庁・図書館など関係機関が持つ情報や、先行研究の文献情報などにも疎い。文系からの情報提供が重要になる。専門の異なる個々人が持っている情報を共有・データベース化できれば、文理融合のツールになりうる。 文理融合・異分野協働への提案 ●文/理の研究者の共同研究としては: 1)情報交換(自分の欲しい情報を異分野の研究者から入手) 2)お互いの興味の理解 3)合同の調査やフィールドでの時間の共有 4)目的を設定した共同研究 などのステップがあると思われる。 1)~3)については順調に進んでいるように感じられる。引き続き4)のステップに進むことが期待される。 ●プロジェクトの成果という点については、リーダーが「文理融合研究の成果」としてまとめてしまうことも可能だと思うが、メンバー的にはそろっているので、「共同研究」でしか答えられない大小の問題設定を考えると良いであろう。 ●文系研究者の出した結果の解釈に、理系研究者が参加することもよいであろう。単に研究発表をするだけでなく、顔を突き合わせて共同で1本のレポートを書くという作業から始めるのも良いかもしれない。