2012年7月18日のミーティングに参加して  河野泰之

2012年7月18日のミーティングに参加して
河野泰之 (京都大学東南アジア研究所)

 本プロジェクトも3年目となり、個別研究に関しては、きっちりとしたデータが蓄積されつつあること、大規模プランテーションの多面的な影響をファクトに基づいて論じることができるようになりつつあること、その成果は大規模プランテーションをめぐる政策、規制、技術などにインパクトを与えうるものとなるだろうことを実感しました。このように、個別研究は順調に進んでいると思うのですが、同時に、研究プロジェクト全体の枠組みがどのように進化しているのかは十分に読み取ることができませんでした。それは、すでにプロジェクト開始以来2年が経過しているにもかかわらず、全体構想の説明において、申請時と同じようなスライドが使われていることに如実に表れていると思います。プロジェクト全体の構想を深める作業は、そう簡単に進むものではありません。個別研究の成果が出てから考えればよいという性格のものでもないと思います。個別研究を進めながら、その成果に基づいて全体の構想を再検討し、その結果を個別研究に反映させるという往還を、あらゆる機会を利用してメンバーが共有しながら繰り返す必要があります。私もプロジェクトメンバーですので、当然ながら、この作業に貢献すべき立場にあります。

 それでは、全体構想をどのように方向へ育てていけばよいのでしょうか。石川さんの全体構想に関する発表では、riverine societies、river-based commons、social/natural systems、ecological unitというような言葉が耳に残りました。これらは、申請時に石川さんが考えておられたことの残滓であるとも言えますが、2年間のプロジェクトの経験や成果を踏まえてもまだ言い続けておられますので、これらのキーワードが、石川さんの頭の中では、全体構想の中核にあるのではないかと推察します。一方で、これらのキーワードは個別研究の発表ではほとんど使われませんでした。これは、全体構想からかけ離れた個別研究が実施されているということではなく、全体構想と個別研究をつなぐ言葉が見つけられていない、あるいは個別研究をうまく位置付ける全体構想の図が描けていないからではないかと思います。

 個別研究をうまく位置付ける全体構想をどう考えていけばよいのでしょうか。ミーティングでとても印象深く感じたのは、大規模プランテーションの開設は、オイルパームやアカシアの増産を結果しているだけではない、ということです。これは当然のことなのですが、この点を追求することは、プランテーション型バイオマス社会の議論に直結するものです。加藤さんのイノシシに関する研究はその典型です。大規模プランテーションが造成されるとイノシシの生態が変わり、その狩猟方法が変わり、それが狩猟する人々の生業や生活を変えます。徳地さんの河川の水質変化に関する研究も水質が変わることによってその先にどのようなconsequenceがあるのかという方向へさらに展開していくと、より興味深いものになるでしょう。逆に市川さん・藤田さんのツバメの巣に関する研究は、ツバメのアパート建設がブームになった背景に大規模プランテーションがサラワク地域社会にもたらした大きな社会経済的変化があるかもしれません。このような大規模プランテーションが生む連鎖が、natural systemとsocial systemを巻き込んで広がりつつある状況をriverine societiesの変容として描くことは、本プロジェクトの大きな柱ではないでしょうか。

 もう1本の柱は、そのような連鎖を踏まえて、大規模プランテーションを成り立たせている制度や技術を検証するというフィードバックだと思います。これに正面から取り組んでおられるのは生方さん・定道さんの研究と小泉さんが発表された研究でしょう。この方向での研究においては、どこまで連鎖の広がりを考慮することができるか、riverine societiesの発展をどのように構想するのか、あるいはグローバルCOEの言葉を借りれば、狭い意味での「生産」のみならず地域社会の「生存」を視野に入れることができるか、というような点が真摯に考える必要があると思います。

 どのように全体構想を展開させていくべきか、さまざまな考えがあると思います。うまい全体構想を導くためには、フィールドの生の情報や知識と、そこから少し引いて俯瞰し洞察することの両方が必要です。ぜひ、議論を深めていきましょう。

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