K社と周辺の小農のアブラヤシ生産活動についての調査報告
定道 有頂(産業技術総合研究所)
2011年8月に開始した生方・定道のK社での共同調査はこれで3回目となる。K社は、サラワク州ビントゥル省にあるアブラヤシ・プランテーションと搾油工場を持つ会社であり、RSPO認証を取得しているため、認証で要求される環境・社会側面の規定に従って活動していることを示すための証拠書類がいつでも開示できるように準備されている。第1回・第2回の調査においては、この資料を中心に調査を行い、例えば、アブラヤシ生産量、肥料・農薬使用量、トラックや発電機の燃料消費量といったK社内の資金・物質フローが把握できるデータを収集してきた。今回の調査は、アブラヤシ生産活動を資金・物質フロー分析を完成させるため、不足していたデータを揃える情報収集が目的である。情報収集は、K社だけではなく、特に情報の不足していた小農を中心に行った。調査の概要を定道が担当する「温室効果ガス排出量の分析」という視点から報告する。
9月14日 MPOB訪問
クチンにあるMPOB(Malaysian Palm Oil Board)のサラワク事務所を訪問し、所長にインタビューを行った。MPOBは、マレーシアのアブラヤシ産業の管理・促進・研究開発を行う政府の一機関であり、アブラヤシに関する多くの活動を行うにはMPOBが管理するライセンスを取得する必要がある。インタビューでわかったことは、ライセンスを通して、国内のアブラヤシに関するサプライチェーンに関する情報を広範囲に把握できるようになっていることだ。例えば、種、苗、果実に関しては物量・場所・販売先などの情報を追跡することができるようになっている。我々はこうしたデータを直接利用することはできないが、MPOBの論文誌Journal of Oil Palm Research を見ると、MPOB内部では、このデータを利用して研究が行われているようだ。
9月17-18日 小農の調査(その1)
K社付近のロングハウスを中心に2日間で計6件のアブラヤシ小農を訪問し、アブラヤシ栽培に関して情報を集めた。アブラヤシ栽培に伴う温室効果ガス排出量は、炭素貯蓄量のできる限り少ない土地(例えば、植生の少ない荒地)をアブラヤシ農園に転換し、窒素肥料の投入を可能な限り低く抑えた上で、いかに多くの収量を得るか、ということにより最小限にできることがこれまでの調査により判明している。インタビューにおいては、この3項目を中心に質問し、他に温室効果ガスの排出源に見落としが無いように、開墾・草刈・除草剤散布に使用したガソリン使用量(燃料の消費は温室効果ガス排出に繋がる)などの項目についても情報を集めた。
調査で判明したのは、小農においては、限られた資金・時間・知識の中で栽培が行われるため、徹底した管理の下で栽培されるプランテーションに比べて投入される窒素施肥量に比べて、収量が低いことである。写真にあるように、調査した小農のアブラヤシの葉や雑草の状態を見ると、プランテーションのアブラヤシとの違いは一目瞭然であり、こうした要因により、収量が低くなるのではないかと推測できる。
9月19日 小農の調査(その2)
K社がRSPO認証対応の1つとして、アブラヤシに関して直接何らかの支援を行っているロングハウス2軒を訪問し、アブラヤシ栽培に関する情報を集めた。これらのロングハウスでは、K社が開催するトレーニング・コースにより、十分な栽培管理が行われており、かつ、アブラヤシ栽培のみにより生計を立てている人もいるため、より徹底した栽培管理が行われているという印象を受けた。アブラヤシの状態を見ても素人目にはプランテーションとの違いはわからなかった。
9月20日 K社訪問
この日はK社を訪問し、情報収集を行った。これまでに行った調査において栽培に関する大半のデータを収集済みだが、土地を開墾し、アブラヤシ農園にするまでの情報が欠けていた。これに関する情報を得ようとするが、K社のRSPO取得以前の情報となるため、詳細な情報を得ることはできなかった。K社の搾油工場も訪問し、副工場長にインタビューして、工場排水からメタンを回収する技術導入の障害や認証パーム油の問題点について話を伺った。
まとめ
今回の調査により、アブラヤシ栽培に関してプランテーションと小農の両方に関する情報が揃い、現状のアブラヤシ栽培における資金・物質フローに関する基礎データがほぼ揃ったことになる。特に小農とプランテーションによる栽培の違いや、その要因について推測ではあるものの、一部把握できたことは大きな成果であった。物理的・時間的に入手不可能なデータに関しては、現在、文献や様々な仮定を用いて推測・補完する作業をしており、成果の執筆に向けて準備中である。