Sarawak Planted Forest ( SPF ) プロジェクトでの野生動物による塩場の利用
Sarawak Planted Forest ( SPF ) プロジェクトでの野生動物による塩場の利用
Jason Hon (世界自然保護基金:WWFマレーシア)
はじめに 本報告は、SPF での短期的なカメラトラップ調査結 果の簡単な報告である。サンプリング場所は、本報告 で「塩場」と称するブロックT1A の天然の塩場である。 カメラトラップは、カメラ正面の動物の動きを感知す る受動型赤外線センサーを用いた自動カメラで、動物 が動くと、カメラが正面を通り過ぎる物を撮影するため に作動し、静止画像又はビデオ形式のいずれかを記録 する。 本調査は、以下を目的とした: 1)アカシアと二次林のモザイク景観の中での塩場を利用する野生動物の種の記録 2)塩場からの距離が野生動物によるパッチ占有確率(occupancy rate)に及ぼす影響の解明 サンプリング場所は、ブロックT1A内の川沿いバッファーゾーンの中に位置した。ブロックT1A 内には、自 然に生じた塩場がある。カメラトラップは、塩場自体と、 塩場から直線的に200m 間隔の地点に配置した。塩場は川に隣接しているため、すべてのサンプリング地点 は川岸からの距離を同じに保ち、水又は川が動物の存在確率に及ぼす影響を抑えた。カメラトラップは、2011年5月10日~2012年3月6日にサンプリング地点に 設置した。
総調査努力量はのべ2,026カメラ日となった。 予備的な結果及び考察:
種構成 カメラトラップからは、全部で17種/分類群が記録 された (表1)。ツパイの1種とホエジカについては、種 の確実な識別ができなかった。T1Aの塩場で記録さ れた画像又はビデオの数が最も多かった3種は、順に スイロク、ヒゲイノシシ、マレーグマであった。 塩場は、有蹄類(大部分が草食動物)にとって重 要である。これは彼らのえさには、一般的には植物体 中に少ない特定のミネラル(陽イオン)が含まれず、塩場のような他の供給源からのミネラル摂取が重要となる ためである。塩場の水は、川の水よりもミネラル含有量 が多いと推測される。この理由で、スイロクは頻繁に塩 場を訪れる。結果は、T1A 内にスイロクの数が多いこと、 SPFのアカシア・二次林モザイク景観の中でうまく生存 できる可能性があることを示した。 塩場からの距離 ソフトウェアPRESENCE (Hines 2006)を用いたさら なる分析に十分なのは、スイロクのデータのみであった。 結果は、すべてのサンプリング場所で占有確率が極め て高いことを示した(Ψ = 1.0)。スイロクの調整前占有確率(naive occupancy probability)の値は、0.875 であった。 しかし、(記録間の時間間隔を問わないすべての記 録を含む)画像及びビデオ数は塩場自体で最も多く、 塩場からの距離が増すにつれて減少し始めた (図1)。 塩場地点自体から得られた多数の記録は、スイロク が塩場でかなりの時間を過ごすことを示した。T1Aの塩場では水分を摂るスイロクの記録がたくさんあった。 また繁殖行動や草を食べるといった他の活動も記録さ れていた。 図1:ブロックT1Aの塩場からの距離ごとのスイロクの記録数(画像およびビデオ) 本調査の結果は、ブロックT1Aにある塩場の保全 が多くの野生動物、特にスイロクにとって重要であるこ とを示した。スイロクの占有確率は塩場地点及び川沿 いバッファーゾーン全体で極めて高かったため、野生動物の長期的な存続にはこのような生息環境を維持す ることが不可欠であると言える。アカシア植林地自体か らのデータは得られなかったため、アカシア、川沿いバッファーゾーン、塩場の比較を行うことができない。しかしこの短期的な調査の結果は、川沿いバッファーゾーンと塩場が野生動物の重要な居住地であり、SPFの中 で保全しなければならないことを示した。 謝辞 この調査の実施の許可について、SPF社及びGrand Perfect(GP)社に心より謝意を表する。 現地調査の実施にはGP社スタッフ、特にJoanes Uggang、 Belden Giman、Alex Jukie、Nyegang Megumの各氏にご尽力いただいた。本プロジェクトは、日本学術振興会基盤S 「東南アジア熱帯域におけるプランテーション型バイオマス社会の総合的研究」からの資金援助を受けた。 (日本語訳: 鮫島弘光ほか)
(引用文献) Hine s , J. E . (2006).
PRESENCE 4- Software to estimate patch occupancy and related parameters. USGS-PWRC. http://www.mbr-pwrc.usgs.gov/software/presence.shtml.
はじめに 本報告は、SPF での短期的なカメラトラップ調査結 果の簡単な報告である。サンプリング場所は、本報告 で「塩場」と称するブロックT1A の天然の塩場である。 カメラトラップは、カメラ正面の動物の動きを感知す る受動型赤外線センサーを用いた自動カメラで、動物 が動くと、カメラが正面を通り過ぎる物を撮影するため に作動し、静止画像又はビデオ形式のいずれかを記録 する。 本調査は、以下を目的とした: 1)アカシアと二次林のモザイク景観の中での塩場を利用する野生動物の種の記録 2)塩場からの距離が野生動物によるパッチ占有確率(occupancy rate)に及ぼす影響の解明 サンプリング場所は、ブロックT1A内の川沿いバッファーゾーンの中に位置した。ブロックT1A 内には、自 然に生じた塩場がある。カメラトラップは、塩場自体と、 塩場から直線的に200m 間隔の地点に配置した。塩場は川に隣接しているため、すべてのサンプリング地点 は川岸からの距離を同じに保ち、水又は川が動物の存在確率に及ぼす影響を抑えた。カメラトラップは、2011年5月10日~2012年3月6日にサンプリング地点に 設置した。
総調査努力量はのべ2,026カメラ日となった。 予備的な結果及び考察:
種構成 カメラトラップからは、全部で17種/分類群が記録 された (表1)。ツパイの1種とホエジカについては、種 の確実な識別ができなかった。T1Aの塩場で記録さ れた画像又はビデオの数が最も多かった3種は、順に スイロク、ヒゲイノシシ、マレーグマであった。 塩場は、有蹄類(大部分が草食動物)にとって重 要である。これは彼らのえさには、一般的には植物体 中に少ない特定のミネラル(陽イオン)が含まれず、塩場のような他の供給源からのミネラル摂取が重要となる ためである。塩場の水は、川の水よりもミネラル含有量 が多いと推測される。この理由で、スイロクは頻繁に塩 場を訪れる。結果は、T1A 内にスイロクの数が多いこと、 SPFのアカシア・二次林モザイク景観の中でうまく生存 できる可能性があることを示した。 塩場からの距離 ソフトウェアPRESENCE (Hines 2006)を用いたさら なる分析に十分なのは、スイロクのデータのみであった。 結果は、すべてのサンプリング場所で占有確率が極め て高いことを示した(Ψ = 1.0)。スイロクの調整前占有確率(naive occupancy probability)の値は、0.875 であった。 しかし、(記録間の時間間隔を問わないすべての記 録を含む)画像及びビデオ数は塩場自体で最も多く、 塩場からの距離が増すにつれて減少し始めた (図1)。 塩場地点自体から得られた多数の記録は、スイロク が塩場でかなりの時間を過ごすことを示した。T1Aの塩場では水分を摂るスイロクの記録がたくさんあった。 また繁殖行動や草を食べるといった他の活動も記録さ れていた。 図1:ブロックT1Aの塩場からの距離ごとのスイロクの記録数(画像およびビデオ) 本調査の結果は、ブロックT1Aにある塩場の保全 が多くの野生動物、特にスイロクにとって重要であるこ とを示した。スイロクの占有確率は塩場地点及び川沿 いバッファーゾーン全体で極めて高かったため、野生動物の長期的な存続にはこのような生息環境を維持す ることが不可欠であると言える。アカシア植林地自体か らのデータは得られなかったため、アカシア、川沿いバッファーゾーン、塩場の比較を行うことができない。しかしこの短期的な調査の結果は、川沿いバッファーゾーンと塩場が野生動物の重要な居住地であり、SPFの中 で保全しなければならないことを示した。 謝辞 この調査の実施の許可について、SPF社及びGrand Perfect(GP)社に心より謝意を表する。 現地調査の実施にはGP社スタッフ、特にJoanes Uggang、 Belden Giman、Alex Jukie、Nyegang Megumの各氏にご尽力いただいた。本プロジェクトは、日本学術振興会基盤S 「東南アジア熱帯域におけるプランテーション型バイオマス社会の総合的研究」からの資金援助を受けた。 (日本語訳: 鮫島弘光ほか)
(引用文献) Hine s , J. E . (2006).
PRESENCE 4- Software to estimate patch occupancy and related parameters. USGS-PWRC. http://www.mbr-pwrc.usgs.gov/software/presence.shtml.