ミャンマーのサイクロン・洪水災害の減災 ―バングラデシュでの成功事例を応用するための取り組み
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Mitigating Cyclone and Flood Damages in Myanmar : Applying the Bangladesh's Successful Experiences

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プロジェクトの概要

 

図1 ベンガル湾における
サイクロン上陸ルートの例

<プロジェクトの目的>
本研究の目的は、バングラデシュにおいてこれまで蓄積されたサイクロン(熱帯低気圧)・洪水への防災・減災ノウハウを、隣国であるミャンマーに向けて応用・提案することです。現地調査によって得られた知見を応用し、科学技術および社会・文化の両側面からその基本方針を策定し、防災・減災技術を現地社会に還元するための手法を議論・確立します。
 

<プロジェクトの背景>
バングラデシュでは、サイクロンによって十数年に一度、数千人から数万人に及ぶ死者が発生し、また、大洪水によって経済活動や人々の暮らしが打撃を受けてきました。特に、同国南部のベンガル湾沿岸域の被害は甚大で(図1)、1971年のサイクロンでは死者30万人とも50万人とも言われる被害が発生しました。1991年には、サイクロン上陸時の高潮や強風による被害者は約14万人にも及んでいます。しかし、その後、2007年のサイクロン“Sidr”上陸の際には死者が約5千人に、2010年のサイクロン“Aira”上陸の際の死者数は数百人にまで減少しています。1987年・88年の連続する未曾有の大洪水被害の後には、洪水を堤防で制御する工学的適応とともに、洪水との共生(living with flood)が提唱され、在地の人々の洪水への農学的適応の知恵を再評価しようとの動きが起こっています。

1971年の独立以降、バングラデシュにおいて頻発する暴風雨や洪水の被害の深刻さが世界的に知られるようになり、各国からの援助が集まりだしました。これによって、気象観測システム、特に全国をカバーする気象レーダーが配備され、早期避難情報の発信が可能になりました。さらに、避難場所として「サイクロンシェルター」(図2)がベンガル湾沿岸部に整備されるようになり、その数は現在2000基にのぼっています。そしてサイクロン・洪水被害に対する復興や支援活動、サイクロンシェルターへの避難に対する意識化の徹底が、人的被害の軽減に大きな役割を果たしたことは間違いありません。

一方、ミャンマーはバングラデシュの隣国で同じくベンガル湾に面する熱帯モンスーンの自然環境下に立地し、沿岸部におけるサイクロン襲来の頻度や規模、内陸の洪水規模も似ています。2008年のサイクロン“Nargis”上陸の際に、南部のイラワジ河口付近のデルタ地帯で約14万人の死者を出すなど、壊滅的な打撃を受けています。この背景には、これまで軍事政権下にあったことにより、海外からの援助が十分でなく、気象観測体制の確立やサイクロンシェルターの整備が滞っていた点が挙げられます。

2007年の民主化以降、ミャンマーにおいてもJICAなどの海外協力によって、気象水文局に2基の気象レーダーの導入が予定され、近い将来ミャンマー国土の70%はカバーされることになっています。また、多くのサイクロンシェルターの建設も計画されていますが、これらのハード的な対応だけでは、サイクロン被害軽減や、今後予想される気象変動による大洪水への対策としては十分とは言えません。私たちは、「気象情報の円滑な住民への伝達」や「コミュニティレベルでの危機避難情報の共有」など、ハードを有効に利用しつつも、それを補完するソフト面での減災の手法を充実させて行きたいと考えています。このような姿勢と考え方を地域社会に還元して行くことで、「被害者ゼロ」「地域の人々の暮らしの持続性」を実現できると確信しています。この目的に向けて、自然災害に対する「工学的対応」とともに、「農学的対応」とも呼べるこれまで地域住民が蓄積してきた経験則「在地の知恵」を加えた、より実効性の高い被害軽減の方法を探って行きたいと思います。

<プロジェクトの基本方針>
本研究プロジェクトは、ベンガル湾沿岸国で、同様な大河川の河口に位置する広大なデルタ地帯を抱えるバングラデシュとミャンマーについて、サイクロン・洪水被害の実態を調査し、その軽減を図るための手法を探ろうとするものです。これまでに、かなりの段階まで被害の克服に成功してきたバングラデシュの成功事例を、ミャンマーの実情に適合するように修正しながら適用することは、国境を越えて、より建設的な対策を講じていくことの可能性を開くものと言えます。しかし、バングラデシュとミャンマーは、
SAARC(南アジア地域協力連合)とASEAN(東南アジア諸国連合)それぞれに属し、地域的な政府間の友好関係は確立されていません。これまで日本と2カ国間の個別の関係の下に進められてきた調査研究を、本学を軸として両国間の活動を連携させ、ミャンマーにおいて有効なサイクロン・洪水災害の軽減方法を構築することは、日本のミャンマー支援にとって重要かつ火急の研究課題と言えます。具体的には、以下の3点をプロジェクトの基本方針として、研究活動を進めて行きます。

(1)     バングラデシュでのサイクロン・洪水被害軽減の「工学的」「農学的」対策と「在地の
   知恵」に関する最新情報の調査・取りまとめ

(2)     ミャンマーにおける気象観測、気象情報の伝達方法とその現状についての調査
(3)     バングラデシュのサイクロンシェルター設置の現状の解析と、ミャンマーへの応用に
   関しての問題点の洗い出し

 

図2 バングラデシュの
サイクロンシェルター

<プロジェクトの進捗状況 2014(平成26年)年度>
(1)バングラデシュ:過去のサイクロン・洪水被災時の実態確認作業、サイクロン・シェルターの現状調査
  201412月と20153月の二度にわたり、各5日間のハティア県ハティア島において現地NGODUSのスタッフとともに、参加型農村調査法(PRA)によってサイクロン被災当時の実態調査を行った。個別の聞取り調査を約10名のインフォーマントの屋敷地にて実施し、聞取りの記録を現地語(ベンガル語)でまとめ、最終日にハティアDUSにおいてインフォーマントの参加を得てそれを修正、検討するワークショップを行った。気象局のサイクロン監視および気象予報システム、および実際のデータの確認を行い、サイクロン・シェルターの実態調査を行った。

(2)ミャンマー:サイクロン監視のための観測システムおよび情報収集システムの現状を調査
 平成26年度には調査ができなかったため、平成27年度に延期

(3)ミャンマー:災害軽減のための活動に関する調査
  20151月にNGOFREDAのスタッフとイエジン農業大学の博士課程学生とともに、イラワジデルタのPyapon郡(Township)のアンダマン海に臨んだ海岸部で高潮による水田の塩害調査を行った。

(4)第1回ワークショップの開催
 The 3rd Workshop between Myanmar and Japan for Science and TechnologyAugust 28, 2014, Mandalay, MyanmarSeminar on Climate Change, Food Security and Livelihoods relating to Disasters, Department of Geography, North Eastern Hill University, Shillong, 2nd& 3rd March 2015.に本メンバーが参加し発表を行った。
 20141128-29日にバンコクのアセアン拠点において、関係するプロジェクトメンバーが集合して、サイクロンの気象学的知識、被害の実態、軽減の方策についての議論を行った。このワークショップは、昨年度すでにSPIRITSで採択されている「非工学的システムのための工学」(研究代表者 西嶋一欽)との共同開催である。

(5)不定期の国内での研究会の開催とWebなどで情報発信
  2015322-23日に東京で、第10回南アジアおよびインドシナにおける自然環境と人間活動に関する研究集会−インド亜大陸東部・インドシナの自然災害と人間活動−」に本メンバーが参加し、発表と議論を行った。

2014年度は本研究プロジェクトのWebページを立ち上げた。

http://www.cseas.kyoto-u.ac.jp/brahmaputra/index.html