持続型生存基盤とは

人類の生存を支える三つの圏:人間圏、生命圏、地球圏
「持続型生存基盤」とは何か。ここでいう生存とは、生き在(ながら)えること、すなわち生き続けることである。命あるものはすべて存在しているが、私たちが人間である以上、個、群、あるいは類としての生存、すなわち人間の生存がまずは想定される。
人類の生存の場としての人間圏は、それらを取り巻く生命圏、地球圏に支えられて存在しつつ、二つの圏に大きな影響を及ぼしている。地球圏、生命圏、人間圏は互いに異なる歴史的スパンをもつ。地球誕生以来の46億年の歴史において、現生人類が誕生し人間圏の形成が始まったのはわずかに20万年前である。また、それぞれの圏、あるいは圏間の相互関係性が生み出す現象は、地域によってもさまざまに異なる。人類の生存を支える三つの圏を「生存圏」と捉えるとき、歴史的に形成された生存圏のなかで人類がどのように生存基盤を構築してきたのか、そしてその生存基盤は今、地域社会においてどのように継承され、あるいは再構築されようとしているのか、これらの圏全体を視野に入れ、その関係と持続可能性をより長期的な視点から総合的に考察したい。

歴史のなかの生存基盤
生存基盤の発展を歴史的にたどってみよう。狩猟・採集社会における人間の初期活動において、生存とは第一に食料の自給・維持や病気の回避といったローカルな個体の維持(survival)という意味での生存であった。やがて農業が定着し、技術や制度の拡大、消費と生産を継続的に反復する再生産(reproduction)により、生存はリージョナルな社会性を備えた。社会のなかで相互の差異、人格を認める価値が生まれ、そのような価値に基づいて必要とされるお互いの存在の承認やケアの実践が、その社会性に人間らしい価値を付与した。人口の漸次的増加はあったものの、自然は基本的に地球圏の論理と生命圏の論理によって統治されていた。そして、産業社会になり、生産の飛躍的拡大と世界的な工業化、特に産業革命以降の化石燃料の大量使用を経て、消費量の上昇スピードは一気に加速し、商品、資本、労働力の自由な移動によって社会はグローバル化、長寿化し、人間圏優位の時代となった。その結果、近代人の生存(subsistence)は、商品、サービス、交通、インフラなど必要な生活手段確保の追求となり、一方では人為的な環境破壊の危機、資源・エネルギー問題を引き起こしケアの価値が後景に退くことを余儀なくするような価値の一元化が生じた。

人類の生存基盤とその持続可能性
人類の生存基盤が、三つの圏からなる生存圏に支えられていることは明らかである。他者たる人、自らをとりまく生のつながり、そして環境と共存してはじめて生存しうるのである。そもそも生存とは、本質的に不確実なものである。個体としての人間の生存には必ず終わりがあり、個人をとりまく集団や社会・環境は歴史のなかで変容・発展・消滅する。生存基盤とはつまり、本質的に不確実な生存を確かなものにするものであるともいえるだろう。
人間圏の維持に必要な環境上の基盤を論じるとき、現代科学技術の限界、あるいは人間圏、生命圏、地球圏の三つの圏間の論理の交錯・重畳などから生じる不確実性などの結果、なおわれわれの知が及ばない部分への人間の対応力は、生存基盤の確保にとってきわめて重要な要素であることも忘れてはならない。人間圏の論理は地域性が大きい。生命圏の論理とは多様性である。この地域性、多様性に対する理解こそ重要である。それらを地域の現場で追究し、調和への過程を検証することが、持続型生存基盤の構築への突破口となるだろう。環境の持続性を人類社会の発展が地球圏、生命圏の論理と整合的な状態と定義するならば、より生存圏の論理に密着した真に持続的な相互作用系と物質的・精神的に満たされた生存基盤の構築を目指す。

改めて、持続型生存基盤論とは何か。人類の生存基盤が持続する条件をできるだけ幅広く探り、環境の持続性を分析する基本単位として「生存圏」を設定し、そこで個人が生きるために、あるいは地域社会が自己を維持するために必要な物質的精神的諸条件を生存基盤と呼ぶとすれば、われわれの最終目標は、ローカルな、リージョナルな、あるいはグローバルな文脈で、持続型の生存基盤を構築する可能性を具体的に明らかにすることである。

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上記の内容はすべて、G-COEニューズレターNo.7、『講座 生存基盤論』第6巻2-2-02、『地球圏・生命圏・人間圏』序章からの引用です。

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