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平成17年度の研究調査内容


    はじめに


ここでは、『インドネシア地方分権下の自然資源管理と社会経済変容:スラウェシ地域研究に向けて(基盤研究(A)(2)』の研究内容を紹介しています。
平成16年4月に独立行政法人日本学術振興会に提出した「平成16年度科学研究費補助金交付申請書 様式A-2」および平成平成15年11月に提出した「研究計画調書(新規)」に基づいて、作成しています。


    研究の射程


世界各地において急速な地域開発が進むなか、開発をいかに環境保全や自然資源の持続的利用と調和させるかが重要な課題となっている。なかでも、自然資源管理を巡るさまざまな問題が生起しており、関係するステークホールダーが多岐にわたるだけに、この問題に取り組むには学際的手法とともに地域の実情に通暁した研究者・実務家による総合的アプローチが必要となっている。

1998年5月のスハルト体制崩壊後、インドネシア共和国は内外の研究者が予想した以上の大きな政治社会的変動を経験した。民主化改革のなかに地方分権化が位置づけられ政治体制は脱中央集権化しつつあるが、体制移行があまりに急速であったために、地方では既存秩序の解体はみられても新たな政治的・社会的秩序が形成されない状態が続いている。このことは自然資源管理にも及んでおり、新地方自治法では州の下位レベルにある県や市の地方自治体が資源管理主体と位置づけられたにもかかわらず、中央政府省庁・地方自治体・国軍・実業家・地元住民・NGOなどの多様なアクターが管理の仕組みを地域ごとに自生的に作りあげているのが実情となっている。地域によっては、地方分権が環境保全や資源の持続的利用を脅かす事態−地方首長と実業家が結託した資源搾取や、慣習法を盾にした地元住民による資源の占有−が頻発している。他方、さまざまなステークホールダーが対話を通じて自然資源管理の方策を模索する動きも活発になっている。

本研究は、主にインドネシアのスラウェシ島に研究の焦点を絞り、このような多様な資源管理の事例をとりあげて、分権下の自然資源管理の様態と地域住民の社会経済生活の変容との関係を学際的・総合的なアプローチにより分析するとともに、これら実証研究の通地域的な検討を加え、より普遍的な自然資源管理のあり方を提示することを目的とする。 スラウェシ島を主な調査地とする理由は以下のとおりである。@東部インドネシアの中核としてインドネシアにおける重要な地域開発対象地域となっている。A森林資源・海洋資源・鉱物資源などの自然資源が多様であり、その利用・管理についてさまざまな試みが現になされている。B研究代表者・分担者ともにスラウェシでの長い調査経験を有しており、当該地域の行政・学術機関や地元住民、NGOなどと広範なネットワークをもつ。


   

    学術的特色と予想される結果・意義


本研究は、スラウェシ地域に精通した研究者が地方分権化とともに生起している自然資源管理の実態を、生態学、政治・行政学、経済学、人類学などの観点から、学際的・総合的に究明・分析しようとする初の試みであり、日本におけるスラウェシ研究の一つの到達点を世界に示すものとなる。

海外共同研究者が所属するハサヌディン大学は、ウォーラセア海域を対象としたスラウェシ地域研究の推進を大学の基本的な研究戦略として掲げており、同大学との共同研究によってインドネシア研究におけるスラウェシ地域研究の意義を一層明確に打ち出すことができる。 東部インドネシアの中核としての地位に位置づけられながらも経済的後進地域であるために、スラウェシには国際的ドナーが資源管理に関わる数々の支援を供与してきた。これらを含めた多様な資源管理の試みを実証的に分析しようとする本研究は、個々の資源管理の実態を例示するだけではなく、それらの比較分析を通じたより普遍的な資源管理モデルの提示を目指している。スラウェシという個別地域を対象とする研究が、実は、グローバルなレベルでも通底している自然資源管理の問題に十分に迫りうる研究であることを示そうとするところに本研究の地域研究としての最大の意義がある。

【国内外における研究の状況】
森林資源や生物多様性の保全を目的とした生態学的研究はスハルト体制崩壊以前から多数あるが、地方分権化後の自然資源管理に関するまとまった研究成果は少ない。わが国では東カリマンタン州における森林の持続的利用をめぐる地方自治体と地元住民の協力に関する研究があるのみで、海外においてもCIFORなどによるカリマンタンやスマトラでの研究が緒についたばかりである。

スハルト体制崩壊後のインドネシアの政治・経済変動を扱った研究は内外においてすでに多く出版されているが、政治社会変動と自然資源管理との関係を扱ったこの分野の研究はほとんどない。スラウェシに関しては、代表者による資源管理に関わる研究、あるいは分担者松井・岡本による地方分権化と地方行政の変容に関わる研究がある。

【科学研究費以外の助成金と本研究課題との相違点】
代表者が平成16年度に継続して助成を受ける課題は、東スマトラ地域における森林再生に向けた住民参加に関する研究を分担者として実施するもので、本研究とは対象地域が異なる。同調査の遂行にあたっては、国内およびインドネシアの共同研究者に調査を委託するなど、臨地研究に従事する時間的負担を軽減する方策をすでに講じている。


    研究計画・方法


■ 本研究調査は、平成16年度〜平成18年度までの3カ年計画とする。

■ 本研究の調査対象地域は主にスラウェシ島であるが、歴史的にスラウェシ島と社会経済的に深い関係を有しているカリマンタン東岸部などの隣接地域も調査地域に含める。

3カ年に共通する研究計画・方法
@生態環境が自然資源管理の様態を大きく規定することから、調査地域を生態条件に応じて大きくふたつの地域、「トラジャ地域」「スプルモンデ諸島地域」に区分し、各区分の特性を考慮しつつ、分権化後の自然資源管理の実態を調査・分析する。

A管理の主体である人・社会や管理対象である自然資源は、スラウェシ地域の社会経済的ネットワークの中に存在してきた。スラウェシ島とその隣接地域が、歴史的に構築してきた人とモノのネットワークを解明する。その際、とくに沿岸部の調査については広域的臨地調査が必要なため、分担者遅沢が平成14年度採択の科研費で造船した調査船を、積極的に利用する。そのための経費として、乗組員雇い上げならびに燃料費からなる船舶借上費を充てる。

B対象地域および広域的ネットワークの調査に際しては、1世紀ほどのタイム・スパンでの経時的変化を知りうる統計的データの収集と多様なステークホールダーへの丹念な聞き取りを行うことを基本とする。とくに、環境保全に関する県レベルの森林局/住民エンパワーメント庁/NGO/慣習的共同体などの交渉・対話の現場の参与観察を重視した手法をとる。

C各生態区分の調査に当たっては、スラウェシ地域の臨地調査の実績を十分に積み、同地域社会に関する深い理解を持つ研究協力者(M元聡子:京都大学東南アジア研究所・研究員、島上宗子:いりあい・よりあい・まなびあいネットワーク、Andi Amri:ハサヌディン大学環境研究所・講師)を配置して、村落レベルでの基本的情報の継続的収集をおこなう。

Dハサヌディン大学との共同研究を、海外共同研究者を軸に実施し、同大学におけるスラウェシ地域研究および海域研究の拠点形成に資する研究協力活動を実施する。

平成16年度の研究計画・方法
上述した3ヵ年の研究計画・方法に従って、研究組織を各生態区分を対象とした以下のふたつのグループに編成する。各グループとも、日本とインドネシアの自然科学・人文社会科学を専門領域とする研究者からなる学際的編成として、共同して以下の調査にあたる。

◆トラジャ研究班…森林・農地境界地域
この地域では、森林地帯への農地の浸食、森林地帯での木材・生物資源の抽出などをめぐって、林業省・地方自治体・地元共同体が複雑に絡まった土地および資源利用の軋轢が生じている。これらの状況を、研究分担者山田・水野・岡本を中心に、海外共同研究者Dias、研究協力者島上が中心となって調査する。主な調査地は南スラウェシ州トラジャ県とする。
農地・森林等における土地および自然資源管理に関わる法制度ならびに慣習を精査すると同時に、参与観察により村落レベルでの自然資源管理の実態を把握する。

◆スプルモンデ諸島班…マカッサル海峡地域
この地域の住民が、歴史的に生業活動の中心としてきた漁撈活動をめぐる自然自然利用とその管理の変容について、生態環境学的アプローチと文化・社会的側面からの参与観察を組み合わせて調査する。海外共同研究者Dadang、Jompa、Amri、研究分担者遅沢・市川・赤嶺が自然資源利用の側面から調査を実施する。 研究協力者松井は条例の施行・改定など行政的側面からの自然資源管理の現状を整理し、研究協力者浜元、Azizは、マカッサル市およびパンケップ県に属する島の基本的現況を収集整理し、総合的な海域社会の理解を目指す。

以上の2地域を対象とした調査班は、

@各地域の自然資源を利用した生産物をめぐる人とモノのネットワークを解明するため、或いは、

A各地域での自然資源管理政策を分権化後の全般的動向と照らし合わすために、次のような広域調査を実施する。


@ネットワーク広域調査 森林産物・海洋生物資源等の採集捕獲ならびにそれらの流通は、地元住民と仲買人、集荷業者などからなる複雑なネットワークを形成している。それらの採集捕獲現場ならびに流通経路の実態を精査するためにはオンサイトの調査が不可欠である。このため、本研究ではとくに沿岸域の自然資源調査に関わって、分担者遅沢が科研費により建造した調査船を活用して広域的臨地調査を実施する。南スラウェシ州沿岸域にとどまらず、マカッサル海峡を隔てたカリマンタン東岸部およびフローレス海を隔てた東ヌサトゥンガラ州北岸域を含めた広域流通ネットワークの実態を調査する。分担者遅沢・赤嶺、海外共同研究者Dadang、研究協力者M元などがこの調査に参加する。

A 自然資源管理政策・制度分析 地方分権化にともなって自然資源管理政策に多様性が生じている。上記の各区分での調査結果を比較総合するために、分担者水野・松井・岡本、海外共同研究者Diasがスラウェシ全州および関連する県・市の政策・制度分析をおこなう。


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