新たな植民地資料利用の展望─シンガポール、マレーシア国家の史的起源をめぐって─

研究代表者:河野 元子(政策研究大学院大学・政策研究科)
共同研究者:坪内 良博(名誉教授(京都大学、甲南女子大学)
      左右田 直規(東京外国語大学・大学院総合国際学研究院)
      鬼丸 武士(九州大学・比較社会文化研究院)
      原 洋之介(政策研究大学院大学・政策研究科)
      篠崎 香織(北九州市立大学・外国語学部)
      岡本 正明(京都大学・東南アジア研究所)

実施期間:2013-2014

  
研究概要:

海峡植民地年次報告書の資料調査(於、イギリス国立文書館、2013 年10 月)

海峡植民地年次報告書の資料調査(於、イギリス国立文書館、2013 年10 月)

 シンガポール、マレーシア国家の史的起源をめぐる研究の多くが、現代の国家の枠組みを過去に投影しており、海峡植民地とマレー半島部を一体として英領マラヤ総体を把握しようとした研究はあまりない。現代の両国家の成り立ちを考察する時、その前史となるイギリス植民地「英領マラヤ」とは一体いかなるものであったのかについての理解は不可欠である。本研究は、このような視座に立って植民地資料の新たな活用の可能性を模索・提示するとともに、植民地の国家機構と社会のあり方を再考し、そこから現在の国家への展望を得ることを目指す。

 
 
詳細:

研究会での坪内良博氏の報告(於、京都、2013 年11 月)

研究会での坪内良博氏の報告(於、京都、2013 年11 月)

 東南アジア研究所図書室には、英領植民地関係のマイクロ資料(海峡植民地部局別年次報告書、英領マラヤ連邦州および非連邦州年次報告書、CO273 文書等)が保管されている。これらの資料を活用した海峡植民地および英領マラヤの歴史に関する研究は、経済史、社会史、政治史など各分野で豊かな蓄積をもつ。しかし、資料の扱いについても、研究対象においても分化していることは否めない。これに対して、本研究では歴史学、政治学、経済学、社会学、資料学の専門家の共同研究により、英国植民地国家および社会の特性を総合的視座より通時的に整理・分析することで明らかにしていく。国家機構の編成、植民地行政、社会構造の変化の分析を通して、植民地資料利用の新たな可能性を提示するとともに、英国植民地マラヤの全体像すなわち「植民地」とは何だったのかを再考することを目的とする。一方で、現在の国家への連続性、非連続性を検討する。

とりわけ海峡植民地年次報告書は、植民地国家の運営・管理を知るために重要な、機構・制度・財政・社会に関する詳細な状況と統計数値を記載していることに特色がある。部局構成、インフラ整備、警察体制、医療制度、教育制度はじめのデータベース構築、具体的な流れ図の作成、各専門分担者の作業のすり合わせにより、植民地国家の完成像を明示することが期待できる。

東南アジア研究所図書室所蔵の海峡植民地年次報告書マイクロ資料(マレーシア国立文書館所蔵マイクロ資料より複写)には一部欠損があるが、研究期間中に英国国立文書館から資料入手を行うことで、保管資料の充実をはかる。一方、データベース、流れ図など作成した資料は公開開示をめざすもので、このことで研究所保存資料の活用をさらに拡大させることになろう。

  
  

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