ベトナム北部・中部における農業開発の歴史地理学的検討

研究代表者:上田 新也(大阪大学・文学研究科)

実施期間:2014-2015

  
研究概要:

ゾイテー集落のディン(バクニン省ティエンズー県)

ゾイテー集落のディン(バクニン省ティエンズー県)

  地方史料を活用した個別事例的な17〜19 世紀の村落史研究に地域史的な幅を持たせるため、東南アジア研究所の所有する地図・衛星画像等の資料を活用し、それらと19 世紀の地簿、現地での聞き取り情報を照合していくことにより検討対象域の農業開発史を明らかにする。これにより、各集落の成立・発展を地域開発の進展と関連づけつつ検討し、17〜19 世紀のベトナム北部・中部の社会変容の全体像を描くことを目的とする。

 
 
詳細:

張曰貴を祀っていたデンの跡地(ゾイテー集落内)に残る17 世紀末の碑文

張曰貴を祀っていたデンの跡地(ゾイテー集落内)に残る17 世紀末の碑文

 桜井由躬雄氏による紅河デルタ開発史研究以降、西村昌也氏による考古学的見地からの輪中形成史についての研究がある程度で、紅河デルタの農業開発史については歴史学見地からの本格的検討はほとんどなされていない。一方で、現在申請者が進めている地方史料を活用した17~19 世紀の村落史研究もあまりに個別事例的であるという欠点がある。このため、現状ではマクロな視点からの農業開発史の研究(ベトナム中部はそれすら乏しい)と、個々の集落の成立・発展というミクロな歴史とを十分に結びつけて論じることが困難となっている。

そこで、本研究では東南アジア研究所の所有する地図・衛星画像等の情報を活用し、それらと19 世紀の地簿、現地での聞き取り情報を照合していくことにより、まず調査集落周辺域の農業開発史を明らかにする。その上で17~19 世紀にかけての各集落の成立・発展を地域開発の進展と関連づけつつ検討し、個々の集落史を地域史の中に位置付けることにより、マクロな視点からの開発史とミクロな集落史とを結びつけていく必要がある。現在、申請者はフエ近郊のタインフオック集落、旧ハータイ省のフンチャウ集落、バクニン省ゾイテー集落などにおいて、それぞれ地方文書の収集、聞き取り調査などを進めている。これらと地図情報等を積極的に用いた開発史の研究を併せることにより、タムザン・ラグーン周辺域や紅河デルタなどについての地域史的研究成果が期待できる。また、さらに進めて申請者の統治機構と地域史を統合した17~19世紀ベトナムの全体像を描くことも期待できる。

  
  

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