V-2.「海域世界の地域研究──セレベス海域の漁撈と生業文化」(平成22年度 FY2010 新規)


  • 研究代表者:小野林太郎(東海大学・海洋学部)

研究概要

本著作は、東南アジア島嶼部に位置するセレベス海とそれを取り囲むスール諸島からミンダナオ島南岸、ボルネオ島北東部沿岸、サンギヘ・タラウド諸島とスラウェシ北岸からなる海域世界を、その歴史・文化的特性より「セレベス海域」と定義したうえで、過去から現在に至る漁撈活動を中心とする海産資源の利用と、そこに見られる生業文化の変遷を、現在を対象とし同時に過去を対象とする「民族考古学」の方法論を利用することで人類史的な視点から取り組んだ地域研究の成果についてまとめたものである。

詳細

本著作の刊行目的の一つは、「海域」が地域研究の一つの対象として成立すること、また「海域」を対象とすることで新たな東南アジアの地域像へとアプローチできることを世間に広く紹介することがある。とくに本著作では、「国家」の視点や枠組みではなく、「海域」という視点・枠組みから見えてくる東南アジア海域世界の地域像を紹介している点に特徴がある。もう一つの目的は人類史的な視点を踏まえることで、東南アジアという枠組みから検討するだけでなく、オセアニアを中心として東南アジア海域世界に隣接する周辺の海域世界との比較・検討を加え、東南アジア海域世界の地域像に迫るという、よりマクロで長期的な「海域」の視点から論じることの必要性を広く紹介するところにある。

いっぽう本著作の意義としては、先行研究で指摘されてきた「フロンティア」や「移動分散型社会」といった要素が、「セレベス海域」では約3500 年前頃に始まる新石器時代期に形成された可能性を考古学・人類学的なデータより明らかにしたことを挙げられる。また研究方法においては、これまで地域研究を行う上での主な研究法とはあまり見なされてこなかった考古学を取り上げ、この分野で発展してきた「現在」にもアプローチできる民族考古学の手法から地域研究の実践が可能であることを証明した点も、その意義の一つである。


ボルネオ島東岸に暮らすサマによるサンゴ礁域での漁撈

インドネシアのタラウド諸島における洞窟遺跡の発掘調査