- 研究代表者:津田浩司(東京大学・大学院総合文化研究科)
- 共同研究者:小林 知(京都大学・東南アジア研究所)
- 北村由美(京都大学・附属図書館)
- 片岡 樹(京都大学・大学院アジアアフリカ地域研究研究科)
- 奈倉京子(静岡県立大学・国際関係学部)
研究概要
本研究は、インドネシアを中心とする東南アジアにおける華人の第二次大戦後の国際移動に焦点を当てる。本研究は、大きく分けて二つの目的をもつ。第一に彼らのナラティブを収集・分析することを通じて、ナショナルヒストリーに埋没しがちな華人の視点からの現代史を再構築する。さらに、移動した華人の現代東南アジア社会における位置づけや役割を再考することを目的としている。国民国家の枠組みによる理解、あるいはビジネスエリートやネットワークに偏りがちだった従来の華人研究に縛られず、実地調査に基づいたデータを積み重ねることで、新たな華人像・東南アジア史を提示することを目指す。
詳細
本研究は、脱植民地期から冷戦期(1950~60年代)の東南アジアで、国境を越えて域内・域外移動した華人たちのライフヒストリーを収集し、それらを連動させつつ分析することを目的としている。とりわけ注目するのは、同地域中最大の華人人口を抱えるものの、その後のいわゆる「同化政策」等の政治的影響で実地研究や文献資料が限られてきたインドネシアを移動の舞台とした華人たちである。本研究では、超域的で動態的であるが通常歴史の表舞台に出ないようなこれら華人によるナラティブを収集し分析することを通じて、現地化か中国化かという二元論を超えた華人像を描き出すと同時に、ナショナルヒストリーには回収し得ない人々の経験から見た新たな東南アジア史・社会像の再構築を試みる。
本研究の最大の特色は、インドネシアをフィールドとする華人研究者のみならず、中国およびタイをフィールドとする研究者を加えた地域横断型研究であることである。移住元・移住先双方に精通した研究者が共通の問題意識で収集したデータを持ち寄り討議することで、個人研究では不可能な複合的・多面的な状況把握が可能になる。
本研究を通して期待される効果として、まず長期定住を前提とした従来の華僑・華人史研究に新しいパースペクティブを提示することが可能であると考えられる。また、脱植民地期から冷戦期にかけてのアジア史の出来事が、東南アジアにどのような影響を与えたかを、個々人のライフヒストリーの収集と検討によって明らかにすることもできるだろう。
泉州南安雪峰華僑農場内の帰国華僑向け住宅。インドネシアからの帰国華僑がパパイヤなどを植えている。 |
華僑大学キャンパス(中国・泉州)。1960年に帰国華僑の受入れを目的として設立された。 |