- 研究代表者:岩月純一(東京大学・大学院総合文化研究科)
- 共同研究者:小島浩之(東京大学・大学院経済学研究科)
- 木谷公哉(京都大学・東南アジア研究所)
- 大野美紀子(京都大学・東南アジア研究所)
- 石川一樹(東京大学・東洋文化研究所)
- 末成道男(東洋大学・アジア文化研究所)
- 遠藤 聡(共立女子大学・国際学部)
研究概要
近年ベトナムでは、ベトナム国家図書館や国立公文書館などの各研究機関において所蔵史・資料のデジタル化が急速に進展しているが、その主たる対象は漢文・チューノム文献に偏向しており、近現代の逐次刊行物、とりわけインドシナ戦争期に刊行された雑誌・公報等の保存が看過され、急速に劣化し消滅の危機に瀕している。本研究は、日越両国の歴史研究者のネットワークを介し、デジタル化による保存対策と適正な環境における公開を進め、日本におけるベトナム研究の発展に寄与すべく資料を招来する。
詳細
本研究が招来する「インドシナ戦争期北ベトナム逐次刊行物コレクション」はインドシナ戦争中に北ベトナムで刊行された教育、歴史・地理学、文学関係の学術及び一般雑誌から成る。この時期の資料は、日本国内外の研究機関ではなお体系的・網羅的に所蔵されておらず、ベトナム本国においても適切な資料保存がなされていない。また、資料保存の有効な手段であるデジタル化は進捗していない一方で、非正規なデジタル化データが内部関係者を通じてインターネットに流出する事態が生じている。この背景にはデジタル資料の公開・利用に係る法的・情報技術的基盤環境が整っていないことが挙げられる。本研究は、招来した資料を灰色文献化することなく、図書館・公文書館が準備する適正な運用環境のもとで、すべての利用者に対して平等に公開することを目的とする。
本研究が招来するコレクションによって、日本国内では一部の南ベトナム資料に偏向していた従来の資料収集状況が一新され、当該時期のベトナム全体の社会研究が可能となる。たとえば官報(Công báo)は、サイゴン政権のものがいくつかの日本の大学に分蔵されているが、北ベトナムの官報、特に1945 年から50 年にかけての“Viêt Nam Dân quôc Công báo” は所蔵がなく、公開されたデジタル版もない。こうした基礎的な史・資料の整備は、これまで国外での長期滞在なしでは不可能だった詳細な文献調査を容易にし、ベトナム近代史研究の深化に寄与するだろう。
ベトナム社会科学アカデミー付属社会科学通信院図書館所蔵雑誌から:『ベトナム民国公報』(ベトナム民主共和国最初の官報。第2 号、1945 年10 月6 日) |
ベトナム社会科学アカデミー付属社会科学通信院図書館所蔵雑誌から:『教育月刊付録:幼児教育』(第一次インドシナ戦争期フランス占領下のハノイで出版された国家教育省発行の雑誌。第1 号、1950 年7 月) |