IV-10. 「乳利用の有無からの牧畜論再考:旧・新大陸の対比」(平成24-25年度 FY2012-2013 継続)


  • 研究代表者:平田昌弘(帯広畜産大学・畜産学部)
  • 共同研究者:松林公蔵(京都大学・東南アジア研究所)
  • 稲村哲也(放送大学・教養学部)
  • 三宅 裕(筑波大学・人文社会系)
  • 月原敏博(福井大学・教育地域科学部)

研究概要

本研究は、牧畜の基盤を成すとされてきた乳文化に着目し、乳利用の視座から生業としての牧畜論を再考するものである。乳文化が牧畜の存立基盤をなす旧大陸乾燥地帯と乳文化が欠落する東南アジア・新大陸とで牧畜の構造について具体的に詳細に比較研究し、食糧獲得、群管理、育種・選抜、交易などの技法について多角的に検討する。また、旧・新大陸の牧畜比較と乳文化の視座をも加味した、新しい牧畜モデルを提起することを試みる。

研究の目的

1 つの生業形態である牧畜についての議論で、「搾乳と去勢の発明により牧畜は成立した」との仮説が提出されている(梅棹、1976)。乳文化は、搾乳・食糧獲得に留まらず、群管理、育種・選抜、交易にも関わる牧畜の存立基盤をなす技術である。以後、牧畜は「家畜の群を管理し、その増殖を手伝い、その乳や肉を直接・間接に利用する生業」と定義され(福井、1987)、様々なモデルが提出されている。一方で、東南アジアやアンデスでは、乳利用が欠落して牧畜が成立していると報告されている(中尾、1972;稲村、1995)。牧畜についての具体的な研究が蓄積してきた現在、牧畜という生業をより広い視野で具体的に再考することが可能な状況となっている。

そこで本研究の目的は、旧大陸と新大陸とにおける牧畜について、
(1)生業構造の比較研究(牧畜の在り方、家畜所有の意義、移動性、農耕民との関係、交易)
(2)生態人類学的比較研究(食糧依存内訳、食糧獲得戦略)
を軸に、乳文化と常に関連させながら、牧畜という生業を再検討する。
その成果として、
(3)牧畜論・牧畜モデルの再考・提起
を試みるものである。

研究の意義

これまでの牧畜論は、乳利用する旧大陸乾燥地帯の事例のみでもっぱら検討されてきた。乳文化が牧畜の存立基盤をなす旧大陸乾燥地帯と乳文化が欠落する旧大陸東南アジア・新大陸とで牧畜の構造を具体的に比較すること自体に、本研究課題の新しさと学際的奥深さとがある。そして、乳利用の有無の視座から検討するという新たな試みによって、牧畜における新しい重要な概念が整えられることに期待がかかる。更に、これまで数多く提出されてきた牧畜論を幅広くレビューし、牧畜論を改めてまとめあげることも本研究課題の意義である。

期待される成果

旧・新大陸の牧畜の構造を具体的に比較することにより、牧畜の存立基盤をなすとされてきた乳文化について再考でき、生業の中で乳文化を新たに位置づけし直すことができる。更に、乳利用の有無の視座から、これまで気がつかなかった新たなる重要な諸相を発見することにもなり、牧畜研究における学際的貢献度は大きい。これら一連の成果は、新しい牧畜論・牧畜モデルの提起ともなる。


アラブ系牧畜民の搾乳。搾乳は、基本的に女・子供の仕事である。1 人がヒツジ・ヤギを固定し、1 人が家畜の後脚の間から両手で搾乳する。

乳製品に依存した食事。酸乳のハーセル、バターのジブデ、バターオイルのサムネ、砂糖、そして、発酵平焼きパンのホブス。乳製品が中心となり食事を成り立たせている。