- 研究代表者:松野明久(大阪大学・大学院国際公共政策研究科)
- 共同研究者:水野広祐(京都大学・東南アジア研究所)
- 内海愛子(大阪経済法科大学・アジア太平洋研究センター)
- 古沢希代子(東京女子大学・現代教養学部)
- 鈴木隆史(フリーランス研究者)
研究概要
東南アジア、とくにはインドネシアと東ティモールを取り上げて、両国と日本の第二次大戦をめぐる、また両国の先の紛争(1974~99 年)をめぐる被害の「記憶」すなわち主観的認識と、それが戦後和解においてもつ重要な役割及び位置付けを探求し、それを基礎に新たな和解のための関係構築のあり方を研究する。戦後和解においては「記憶」に向き合い、それをいかに癒やすかが大きな課題であることを、異なる2 つの戦争体験の記憶をもとに一般的命題として論証する。
詳細
太平洋戦争期、またインドネシアと東ティモールの紛争については多くの研究が存在する。しかし、これらの戦争・紛争の被害の記憶は、一部収集され、公刊されているが、その分析方法や取り扱い方法、戦後和解における位置付けについて深く研究されてきたとはいえない。むしろ「記憶」は主観的領域の問題として実証研究の枠外に置かれてきた感がある。こうした背景に立って、本研究は「記憶」のもつ積極的な意義と役割を明らかにし、それが戦後和解のための諸政策、例えば「真実和解」といった手法などにおいて、どのように政策的に実行可能かを探求することで、戦後の関係再構築に資することを目的とする。
本研究は、被害・加害の証言収集を追加的に行うが、証言収集そのものを目的とするのではなく、その意義の明確化、戦後和解における役割の考察といった理論的探究を行うことが目的であり、それによって学的な蓄積を具体的な社会的課題につなぎ、戦後和解の実現に貢献することができる。
東アジアについての戦争被害の研究は蓄積があるが、東南アジアについては多くはない。本研究はこのギャップを埋めることに貢献する。次に、口頭証言が内包する記憶、感情、人生観・世界観・倫理観といった広がりをもつ認識的世界の包括性について、理論的意義を明らかにすることができる。そうした新しい観点から、これまでの諸政策を振り返り、あるべき政策・福祉のあり方を提示することができる。
日本軍部隊が駐留していた場所を住民とともに歩く。日本軍が作ったトーチカがいくつも存在する。インドネシアのスラウェシ州にて。(撮影=鈴木隆史) |
日本軍が建設した空港の近くには地下壕が張り巡らされていた。そこに食事を運んでいった母は性的暴力を受けていたと、住民は語る。インドネシア、南スラウェシ州。撮影=鈴木隆史。 |