- 研究代表者:日下 渉(名古屋大学・大学院国際開発研究科)
- 共同研究者:渡邊暁子(文教大学・国際学部)
- 岡本正明(京都大学・東南アジア研究所)
- 本名 純(立命館大学・国際関係学部)
- 見市 建(岩手県立大学・総合政策学部)
- 新井健一郎(共愛学園前橋国際大学・国際社会学部)
- 伊賀 司(京都大学・東南アジア研究所)
- 鈴木絢女(福岡女子大学・国際文理学部)
- 相沢伸広(ジェトロ・アジア経済研究所)
研究概要
本研究の目的は、東南アジア4 カ国の首都であるバンコク、ジャカルタ、マニラ、クアラルンプールを対象に、「開発の政治」と「支持調達の政治」という2 つの政治の相互関係に着目して、大都市の政治を分析することである。本研究では、開発ガバナンスの特徴、グローバル経済への埋め込まれ方、民主化の進展度など、様々な点で相違点のある4 つの大都市において、これら2 つの政治がいかに絡まりあって、都市の開発と住民の生活基盤を形作っているのかを明らかにしたい。
詳細
開発の政治とは、国家や民間セクターが都市インフラの整備や開発事業を目的に、用地の取得や資金の調達をめぐって展開するものである。他方、支持調達の政治とは、政治家が住民から支持と票を獲得するために行うものであり、住民サービスやクライエンタリズムを含む。都市開発が住民からの支持調達に寄与することがあるように、両者は共存し互いに補完しうる。しかし、再開発事業が不法占拠者や露天商の生存基盤を破壊することも多いし、政治家による目先の集票を狙った政策やばら撒きが、長期的な都市開発を損なうことも多い。そのため、2 つの政治の間には軋轢も存在する。
開発の政治が暴走すれば、富裕・中間層向けの再開発が加速すると同時に、都市空間は分断され、貧困層はいっそうの排除を経験するだろう。逆に支持調達の政治ばかりが支配的になれば、スラムの蔓延した都市の低開発が助長されるだろう。2 つの政治は、いかなる条件において、住民の生存基盤を支え、また都市の持続可能な発展に寄与できるのだろうか。この問題を明らかにすることが、本研究の目的である。
東南アジアでは都市化が急速に進んでおり、都市人口はタイで3割強、フィリピン、インドネシアで5 割、マレーシアで実に7 割強にも達する。都市化は有権者人口の増加と消費市場の拡大を意味するため、それぞれ支持調達の政治と開発の政治の重要性をいっそう高めている。その結果、これらの都市では、民主主義の正統性と資本主義の利潤追求は、いかに共存しうるのかという古典的な問題が集約的に現れている。この古典的な問題に現代東南アジアの都市から改めてアプローチすることは、学術的にも社会的にも大きな意義をもつ。
相沢伸広氏(九州大学)の報告 |
濱谷洋二氏(九州大学)の報告 |