- 研究代表者:松田正彦(立命館大学・国際関係学部)
- 共同研究者:久保忠行(大妻女子大学・比較文化学部)
- 中西嘉宏(京都大学・東南アジア研究所)
- 藤田幸一(京都大学・東南アジア研究所)
- 水野敦子(九州大学・大学院経済学研究院)
- 飯國有佳子(大東文化大学・国際関係学部)
- 生駒美樹(東京外国語大学・総合国際学研究科)
研究概要
「民政移管」以降のミャンマーでは、約 50 年ぶりに競争的選挙が復活し、国民の多数を占める小規模農家が政治的多数派を形成しうる状況になった。2015 年後半に予定される総選挙を前に、政府と与党は小農たちの支持獲得を目指した政策をさらに実施するものと予想される。ミャンマーのような小農社会における民主政治は農業や農村をどこへ導くのだろうか。本研究では、東南アジアの農業・農村と政治システムとの相互作用の解明に向けた作業の端緒として、ミャンマー農村に関わる近年の経済・社会・政治的変化の実態を明らかにする。
詳細
ミャンマーでは2011年に発足した新政権が政治体制の民主化や経済制度の自由化をすすめており、地方農村を取り巻く状況は急激に変わりつつある。たとえば、農産物輸出の自由化や新たな「農地法」の施行、農業金融の強化などはミャンマーの農業部門を経済的に活性化させる要素である。一方、外資をテコに政府が主導する開発事業に対して農村住民の激しい抵抗も顕在化している。また、地方行政の主体となる「州/地域」や新たに設定された「少数民族自治区」がどのように自律性を発揮していくのかはまだ不透明である。さらに、民主化は国民の大部分を占める農村部住民の政治参加を可能にしたため政府や与党にとって彼らは無視できない存在となり、最近では政府のポピュリズム的な政策が実施されようとしている。
本研究の目的は、このように新たな国家枠組みを構築する最中にあるミャンマーにおいて、小農あるいは農村部住民をめぐる政治的な動態と農業・農村部門の環境変化との相互関係を明らかにすることである。特に土地・農業・農村・開発事業に関わる法整備や制度変更について、それらの背景と現場での運用実態、相互関連性に注目する。これにより、ミャンマーが直面する個々の課題について、その本質や解決の道筋を論じるための知見を提供できるだろう。加えて、現代ミャンマーの動態を、タイの農家所得増加政策やインドネシア地方分権後の農村開発政策といった東南アジアにおける小農と政治の多様な関係史の中へ位置づけ、東南アジアの小農世界と民主政治との関係における普遍性と固有性を見出す研究の端緒としたい。
水害を被った農村地域へ向けて出発する国内ボランティア団体(ヤンゴン空港、2015 年8 月) |
総選挙を11 月に迎えるミャンマー農村では選挙人名簿の確認が促されている(2015 年8 月) |