- 研究代表者:高木佑輔(政策研究大学院大学・政策研究科)
研究概要
フィリピン中央銀行は、1949年に開行し、同年末には為替管理を断行、1950 年代の開発政策レジームの中核を担った。この時期、フィリピンはその前後の時期にはない政治的安定と経済的繁栄を経験した。本書は、政策に関するアイディアを共有する政策当事者ネットワークが、政策レジームを形成していく歴史的な過程を追跡する。さらに、そのネットワークが、米国植民地期以降に形成された在比米国人や一部フィリピン人による既得権益と衝突しながらも、一定の経済構造改革を実現したと論じる。
詳細
本書には2つの目的がある。第1に、フィリピン政治研究の通説を覆す視点を提示することを目指す。本書は、これまでほとんど政治学的な分析がなされてこなかった、中央銀行による為替管理政策を巡る政治過程を考察対象とする。国内外の政治構造の静態性を強調する既存研究では、政府による経済構造改革につながった同政策を巡る政治過程を分析することはできなかった。これに対し、本書は、フィリピン経済協会のような政治家、官僚と経済専門家からなるネットワークの存在を解明した。
第2に、政治学研究における政治史的手法の重要性を喚起することを目的とする。現在、特に英文で出版される比較政治学の研究では、特定の制度の役割に対する関心が強い一方、制度の存在自体は所与にされる傾向が強い。本研究は、新事実の発見を重視する政治史的手法を用いて、制度が生み出される比較的長期の過程を追跡した。具体的には、政策に関するアイディアを共有する政策当事者ネットワークが、中央銀行による為替管理を軸とする政策レジームを形成し、在比米国人の経済権益や、植民地期以来の一部フィリピン人権益と衝突しながらも、一定の経済構造改革を実現していく過程を再構成した。以上を通じて、政策当事者ネットワークが社会経済構造を変革するような制度を生み出したと論じた。
さらに、本書を英文で出版することには、地域研究や歴史を重視する日本発の政治学の在り方を国際的に発信する意義があると考える。
マニラ湾に面する現在のフィリピン中央銀行(BSP)。右奥に見えるのは財務省。中央銀行は、まるで力の差を誇示するように威容を誇っている。 |
初代中央銀行総裁ミゲル・クアデルノのお孫さん(左)と筆者(右)。 |