- 研究代表者:茅根由佳(京都大学・東南アジア研究所)
研究概要
本研究では、2004 年以降のユドヨノ政権期及びジョコ・ウィドド政権における、石油ガス、電力、鉱業セクターを分析の対象とし、経済自由主義政策が転換されるメカニズムを明らかにする。具体的には、政策転換が実現されたセクターにおいて、現状維持を打開するために憲法に規定される立法過程で、その同意が必要とされるアクターである「拒否権プレイヤー」がなぜ合意を形成するに至ったのかを明らかにする。そこで、エネルギー政策の運営をめぐって、議会外から政策転換圧力を与える社会アクターの行動を検討することで、彼らが拒否権プレイヤーの合意形成を促し政策転換を実現させる戦略を分析する。
詳細
本研究は、インドネシア最大の産業分野であるエネルギー関連の政策を事例に、保護主義化をめぐる政策転換のメカニズムを明らかにすることを目的とする。インドネシア政府は、民主化後にIMFの提言を受けて、エネルギー産業における国有企業の独占解体及び規制緩和を促進し、外資系メジャーの積極的誘致や資源輸出を奨励する自由主義型の政策方針をとってきた。しかし近年では資源輸出に依存する経済構造から脱却し、国有企業を中核とした資源精製、インフラ事業に国家歳入を優先的に分配するための、保護主義政策を求める圧力が強まっている。このような動きは、経済ナショナリズムに基づく「国家による天然資源の統括」を規定する1945年憲法第33条を根拠としている。
本研究では、こうした保護主義化による政策転換の成否がセクター間で異なっていることに注目し、その差異が一体何によって決定づけられるのか説明する。そこで、民主化時代のインドネシアにおいて拒否権プレイヤーの行動に決定的な影響を与える社会アクターに焦点を当て、豊富な天然資源を持つ、民主主義国家の政治過程を分析する新たな枠組みを提示する。インドネシア政治の既存研究がエリート支配を強調してきたなか、インドネシアの政治経済構造を細分化し、多元的な政治システムの問題解決能力と政策決定の柔軟性に着眼して捉え直す点で有意義な知見を提示する。また、国内に豊富な資源を持ちながらも、経済の低成長や権威主義的なエリート支配に特徴付けられる資源国特有の問題を克服し、民主主義体制のもとで持続的な経済成長を達成してきた新興国の事例を提供できる。
東ジャワ州ボジョネゴロ県チェプ鉱区 |
大衆へ国民の資源を返せ |