- 研究代表者:吉村千恵(熊本学園大学・社会福祉学部)
研究概要
1980 年代より、世界保健機構(WHO)の後押しで始まったプライマリ・ヘルスケアの活動は、現在のタイでは地域内保健ボランティア(タイ語ではオー・ソー・モーと省略される、以下 OSM)の活動として定着している。タイの国家健康法に基づき各農村に一定人数選出されるOSMは、全ての地域でデータ収集や広報活動などを定期的に行うほか、地域内の保健や福祉ニーズの担い手として期待されている。それらOSM の活動の実態を明らかにするとともに、その存在意義や役割について検証する。
詳細
研究の目的は、障害者や高齢者の生活支援や健康問題に直結する環境問題に対する住民の動向を切り口にOSMの役割と意義について検証を行うことである。OSMは、地域健康保健病院(旧保健所)を中心に地域内で血圧や糖尿病チェック、頓服確認などを定期的に行っている。また、高齢者や障害者、妊婦や乳幼児への定期訪問などを行っている。OSMが収集したそれらのデータは、公衆衛生局や統計局によって年間報告としてまとめられる。加えて公衆衛生局による広報活動を地域内で実際に行うのもOSMである。そのために、OSMには公衆衛生局などによる定期的なセミナー開催も行われる。
OSMは全国の各地域に配置される行政システムの末端または現場を担うが、その働きは多様であり活動の詳細や地域への貢献状況については明らかにされてこなかった。昨今、OSMが活動対象とする高齢者や障害者、疾病者や乳幼児は、現代タイ社会で対応が急務とされている人々であり、OSMの役割について検証することは今後ますます重要となる。また、OSMに選任される村人は、地域内のキーパーソンであることが多い。地域内ケアや地域内活動、もしくは地域環境の改善において、OSMの持つ潜在能力は大きい。
この研究によって、OSMの現場での実践を明らかにすることでタイの公衆衛生局による地域保健政策の一端を明らかにすることができる。また、地域の重要なアクターであるOSMの活動を明らかにし、その役割や意義を検討することで、タイ社会のケアシステムについて重要な示唆を得ることができる。
改めて社会におけるケアやニーズ補完の体制を考察し、国家・社会・地域・家族のアクターについて再考する。
ランチミーティング(タイ・ルーイ県) |
保健師と一緒に家庭訪問をするコミュニティヘルスボランティア(OSM) (生活調査、血圧測定、血糖値検査、頓服確認など) |