- 研究代表者:新谷春乃(東京大学・大学院総合文化研究科地域文化研究専攻)
研究概要
本研究は、民主カンプチア体制(1975〜79 年)による国土の荒廃からの復興再建、そして和平、国連による委任統治へとカンボジアが大きく変容したカンプチア人民共和国期(1979〜89 年)からカンボジア国期(1989〜93 年)にかけての、カンプチア人民革命党(1991 年にカンボジア人民党へ改称)の歴史・文化イメージの構築と変容過程に焦点を当て、国民統合をめぐる政治思想を明らかにする。そのために、本研究では東南アジア研究所図書館所蔵の新聞資料等の収集・検討を行う。
詳細
本研究の目的は、東南アジア研究所に所蔵されているカンプチア人民共和国期からカンボジア国期にかけて発行された新聞、特に1980年代に刊行された新聞『カンプチア』の検討を通して、そこに見られる歴史・文化イメージの構築過程に焦点を当て、人民革命党の国民統合をめぐる政治思想を明らかにすることである。独立以降、カンボジアの為政者は自らの支配の正当性を主張する際、カンボジアの過去の集合的記憶を動員することを通じて行ってきた。そのため、歴史やそれに裏付けられる文化が重要な要素であり続けた。本研究では、現政権へと連なるカンプチア人民共和国・カンボジア国期に着目し、その時期の新聞メディアを研究対象とし、カンボジア政治思想史の中に位置づけることを試みる。
カンボジアが独立して以降、最も長くカンボジアを統治する人民党に関する研究は、政治制度を中心とする基礎研究が主体となって進められている。その一方で、その統治の思想的側面や大衆への宣伝に関する研究は未だ少ない。本研究は独立以降のカンボジア政治思想史研究に貢献すると同時に、1980年代から1990年代初頭を現政権の統治の基盤構築の時期と位置づけることで、現政権の統治思想の史的理解につながる。これまで申請者は教科書の記述分析を通した国民統合思想の表象や、その担い手への聞き取り調査を実施してきた。それらの成果等と組み合わせることで、民主カンプチア体制崩壊から1993年の王国復活までの国民統合をめぐる政治思想の表象を複合的な視点で捉えることが可能となると考える。
カンボジアの文化と歴史に関する『カンプチア』の記事 |
ツールスレイン虐殺博物館(2015 年3 月撮影) |