- 研究代表者:長谷川拓也(筑波大学・人文社会系)
研究概要
インドネシアで2014 年に新しく制定された村落法は、村落が受け取る配分金を大幅に増やし、村落行政のありかたを大きく変容させた。これは権力の地方への分散をますます進めるものであり、ジャカルタで政治経済権力を握っているものにとっては自分達の権益を縮小させかねないものである。本研究は同法律が成立するまでの過程を検証し、なぜ中央政府や国民議会はそうした選択をしたのかを明らかにする。
詳細
新村落法の成立には、村落行政従事者の全国連盟(APDESI)による下からの圧力が大きな役割を果たしたと言われている。この組織は大規模なデモを繰り返すことで国会や中央政府に圧力をかけた。その一方で、ジョクジャカルタを中心とする学者やNGO関係者のコミュニティと連携し、国民議会を説得するための議論の精緻化を図った。こうした動きに一部分の国会議員が呼応し、かれらが積極的にその必要性を訴えたことで、他の議員やユドヨノ政府を説得するに至ったという背景がある。本研究は、そうした関係者に対して聞き取り調査を行い、村落法成立に関わった各アクターの動機や戦略を明らかにしようとするものである。
インドネシア政治研究では、スハルト時代の政治経済支配勢力が民主化後も引き続き支配し続けていることを強調するものが多い。新たな制度はそうした支配勢力が完全に権力を掌握しているなかで設計されているため、必然的に彼らが恩恵を受けられるようなものになっているとされる。しかしながら、新村落法はそうしたものの既得権益を縮小させかねないものである。そのような変化を促す法律が、スハルト時代に台頭したエリートが大半を占める国民議会において制定されている。本研究は、権力の地方への分散を求める声を抑えることのできないジャカルタのエリートを描く。これは、インドネシアのエリート支配論を考えるうえでの新たな知見を与えるものになると期待できる。
資源豊富な地域の村役場の様子(リアウ州クアンタン・シンギンギ県タンジュン・パウ村) |
村の開発計画について村長が住民に説明している様子(リアウ州プララワン県ムルバウ村) |