- 研究代表者:倉島孝行(京都大学・アジア・アフリカ地域研究研究科)
- 共同研究者:神崎 護(京都大学・農学部)
- 佐野 真(森林総合研究所・森林管理研究領域)
- Chann Sophal(森林野生動物調査開発研究所)
- 小林 知(京都大学・東南アジア地域研究研究所)
- 松浦俊也(森林総合研究所・森林管理研究領域)
研究概要
ストップ熱帯林消失の取り組みは、国際社会の多くの支援にもかかわらず、事態の好転を見ずに今日に至る。本研究の目的は、従来の取り組み失敗の原因を1)国際社会、2)途上国首都、3)農山村の3 領域にわたる諸アクター間の利害調整の不調に求め、より良い利害調整策とその導出原理を示すことである。特にカンボジアを例に文理複数分野の研究手法により、国際的な取り組みの失敗が農山村域の生態環境変化に与えた悪影響とその仕組みを検証し、諸アクター間の利害構造をつなぐ道筋を示す。
詳細
本研究では現在その扱いが喫緊の課題となっている、世界銀行などによって使われてきた国際環境人権基準(セーフガード;以下「国際基準」)に焦点をあて、それが熱帯林の保全に対して逆効果となった態様とその仕組み、逆効果の矯正法を示す。具体的には国際基準が途上国農山村域の生態環境変化に与えた悪影響を理系、逆効果を生んだメカニズムを文系の各アプローチから明らかにし、その上で文理の知から矯正法を考えて示す。
本研究の特徴は1)従来の熱帯林破壊の要因分析に、新たな説明変数として国際社会の動向を組み込むこと、2)3 領域にわたる諸アクターの熱帯林への問題行動の抑止方法を、各利害構造についての理解と文理複数分野の複合知から導くことである。これらの特徴は本研究を、1)グローバル化した熱帯林管理に不可欠な領域とアクターの動向を分析に組み入れ、2)破壊要因のみならずその抑止方法をも考察対象とした、熱帯林動態要因研究の嚆矢とする。
また、本研究はワンセット型と呼べる研究スタイルをとる。具体的には国際機関の担当者を念頭に、問題の実態と原因、解決策をまとめて示す。その際、理系アプローチによる実証的な実態把握・提示と、文系アプローチによる構造的な問題解釈・説得的な解決策提示との相乗効果が、国際機関の戦略や行動変化につながりうると考える。さらにそうした変化が諸アクターの利害構造の適切な理解に基づく周到な介入を生み、それが途上国の低質な諸現実と国際基準とのギャップを埋め、最終的に熱帯林の保全に結びつくと想定する。
終わらない「問題」の象徴? 森への入り口には次々と新しい国際ドナーの看板が現れる。古いドナーのものの横に新しいドナーのものが立てられたり、張り替えられたりしながら。 |