- 研究代表者:ワフユ・プラスティヤワン(シャリフ・ヒダヤトゥラー・イスラーム国立大学(ジャカルタ、インドネシア))
刊行物の内容
スハルト体制崩壊後のインドネシアにおいて、ハビビ新政権は地方分権化政策を開始し、中央地方関係を一変させた。地方政府は、天然資源の管理や分配を巡って中央政府と激しい紛争を展開するようになったのである。地方エリートたちは、経済・政治の諸制度の形成にこれまで以上の関与を求めた。天然資源の運営・管理をめぐる抗争は、もはや国家レベルの政治アクターや利権に限られないし、地方レベルにとどまるわけでもない。本書は、地方のアクターが天然資源をめぐって関与を深め、中央政府と紛争をし始めた結果、政治経済の構造がどのように変化を遂げてきたかを論ずる。この天然資源を巡る紛争により、さまざまな政治アクター間のレント分配に大きな変化をもたらしたことを明らかにする。
目的
本書は、地方エリートがどのように天然資源を巡って中央政府と紛争を繰り広げているのかを解明することを目的としている。地方エリートはどのようにして中央の政治権力と政治的ネットワークを形成してきたのか?地方エリートはどのようにして既存の諸制度の中で動いてこられたのか?これまでのインドネシア地方政治研究では地方エリートに焦点を当てるものが多く、中央政府との関係を看過してきた。しかし、それでは、インドネシアの地方レベルの政治経済の動態を十分に説明できない。
意義
ネットワークが政治に影響するという考えは新しいものではない。制度が政治的決定の産物として政治を含む人間の行動を導くものであるという考えは、1980 年代から議論されてきた。しかし、こうしたネットワーク論と制度論とを合わせてインドネシアの政治経済を理解する試みは新しいはずである。本研究では、政治アクターは複数の制度に絡んで活動する必要がある以上、(諸制度をまたがる)ネットワークを作るということを明らかにしたい。政治アクターは既存の諸制度がメリットになるようにネットワークを作り上げようとするし、そうした諸制度とネットワークの絡み合いのなかで政治アクター間の対立は起きる。本書は、地方の政治アクターたちが諸制度を利用しつつ、その諸制度をまたがる形でネットワークを中央レベルでも構築することで政治的目的をいかに達成しようとしてきたのかを論じるものである。本研究は、政治的脅迫や暴力行使に偏ってきた既存のインドネシア地方政治(経済)研究へのオルタナティブを提供するものである。
期待される成果
本研究は、ネットワーク論と制度論という応用可能な枠組みを用いて、民主化という重要な転換期を迎えているインドネシア政治の分析を試みている。こうした一般的枠組みを用いることで、本研究は、インドネシアのみならず東南アジア、更には途上国の研究者にも意味のある研究となっている。また、天然資源をめぐる政治経済学にも新たな視点を提示するはずである。
京都大学東南アジア研究所にてプレゼンテーション(2006 年) |
1999 年地方分権法案起草者のひとりDiohermansyah Johan 教授インタビュー(ジャカルタ2015 年) |