- 研究代表者:鄭 美景(花園大学・大学院文学研究科)
研究概要
近代ベトナムの臨済宗天童派の所依経典などを、東南アジア地域研究研究所所蔵の在泰京越南寺院景福寺が所蔵していた漢籍を通じて検討する。すなわち、フランス植民地支配、反仏独立運動、そして 第二次世界大戦までのベトナムの激動期における禅宗の反響を考察する。それによって、臨済宗41 代のティク・ナット・ハンによって世界に広がった、ベトナムの禅宗の地域的特色が分かると言えよう。
詳細
在泰京越南寺院景福寺所蔵漢籍を利用し、近代ベトナムの臨済宗天童派の所依経典などを検討することを本研究の目的とする。
ベトナムにおける臨済宗の継承は、陳朝時代においてである。陳朝はベトナム人の自立した王朝であり、すなわち、13 世紀にモンゴルの三度にわたる侵攻に戦い、独自のベトナム文化を創り上げた時代に臨済宗が受け入れられた。
自国の文字である「字喃文字」も陳朝時代に創造され、ベトナムの独自な文化形成に大きく寄与していた。殊に仏教経典が字喃文字で翻訳されることによって、仏教の大衆化ももたらされることができた。また、臨済宗は、戦乱と自国文化への自負心が高まったこの時代に継承され、それ以来、ベトナムの禅宗の中心を占めることになる。そのベトナムの臨済宗には、禅のほか阿弥陀仏を掲げた浄土思想と念仏、戒律、民間信仰などの特徴が見られる。
今回研究対象になる景福寺は、1896 年ラーマ5 世により、ベトナム僧景福のためにタイに建てられたという寺伝を持つ、臨済宗天童派の寺院である。東南アジア地域研究研究所の景福寺旧所蔵漢籍目録を大まかに見ると、阿弥陀経、水懺法、字喃文字の経典、もしくは、儒教、道教などの民間信仰と関わる書籍が目立つ。
ベトナムの陳朝時代と、近代の統一国家ベトナムの形を完成した阮朝時代、そして、同時代の日・中・韓3 国の時代的背景は類似した点が多い。つまり、在泰京越南寺院景福寺の旧所蔵漢籍からベトナム仏教が近代における中国と韓国との類似した禅宗の形態であることと、近現代日・中・韓の3 国に見られる仏教復興・改革運動、ひいては独立運動、民衆運動といった時代思潮に同参していた状況が現れると期待される。