- 研究代表者:Justin McDaniel(ペンシルベニア大学カレッジオブアートアンドサイエンス・宗教学部)
研究概要
本書は、2000 年から2016 年までに申請者が出版した論文をまとめたものである。研究テーマは多岐にわたっており、文化人類学、文献学、歴史学、宗教学、そして芸術歴史学の分野の学生や学者に向けてなされている。申請者はまた、15 世紀から現在までの一次資料を分析している。これらの論文は、今日の方法論的アプローチに異議申し立てをし、幅広い観衆に語り掛けるものである。これらの研究は、「世界最大の仏教国」であるタイ(人口の96% が仏教徒)を理解するための回路となる尼僧や僧侶、在家信徒、そして彼らの忠誠心に着眼している。それゆえ、本書は仏教史の研究書ではなく、タイにおける意味創造、知識生産、語り、そしてローカルな記憶の構造についての研究書である。申請者は「仏教」を記述するのではない。伝記や文献、映像、テレビジョン、ドラマ、儀礼、インターネットを含めた多くの現場において、様々な技術を通じて「仏教」としてローカルに参照される知識が、長年の時を経ていかに形作られ、変容してきたかについて興味を抱いている。
詳細
本書にて、申請者は、個人的なエージェント(テキスト、彫像、教師、呪術師など)がつねに他の人々や芸術、テキスト、そしてモノとの関係性の中に存在しているという点を強調する。この視点によって、複雑で矛盾をはらんだエージェントの能力と権力を考察に加えることが可能になる。テキストやモノ、人々の生は彼ら自身のものではなく、多くの他なるものに語られ、また更に語られる。エージェントの研究は、正確には多くの人々がエージェントを構成する方法の研究に等しい。このエージェントに対する研究姿勢は、仏教用語において縁起(パーリ語:paṭiccasamuppāda)と呼ばれる概念の状況化を認識する際に有益となるであろう。一人が書き、話すとき、それらは調査地を「表象する」無意識の声となる。特にオンラインニュースや博物館、公共の場での大規模集会などで対談を求められる際、往々にして学者は「専門家」や「資源」の役割に入り込む。申請者は、過去と現在における個々のタイ仏教徒、モノ、出来事、テキストについて論じたいと望む一方で、一般にタイ仏教について物語っていることに気が付く。この論集が、上記のような葛藤を解決することはせずとも、明らかにすることを望んでいる。
バンコクのWat Thepdhitaram にある53 体の比丘尼像 |
死体を見つめて経を唱えるタイの僧侶 バンコクのWat Sommanat の19 世紀半ばに描かれた壁画より |