VI-3. 「植民地期ベトナム南部における地域内商品米取引──ベトナム語新聞からの接近」(令和1年度 FY2019 新規)


  • 研究代表者 : 池田昌弘 (神戸大学・大学院経済学研究科)

研究概要

本研究では、植民地期ベトナム南部における地域内輸出商品米流通の実態解明を目指し、とりわけ生産地からどのように商品米が取引され、輸出港となるサイゴン港まで輸送されていたのかを具体的に明らかにすることを目的とする。これを達成する一助となる統計的データを収集すべく、当時発行されていたベトナム語新聞を中心とした資料収集を可能な限り網羅的に行い、分析を進める。

詳細

植民地期ベトナム南部は、該当期アジア域内米貿易における一大輸出地帯に位置付けられる。現地人や華僑商人が主体となり当時の米輸出は進展した。しかし、その接合部分となる両者の取引の具体的諸像は明らかでなく、米の商品化による地域社会経済の変容は未解明な部分が多い。これを明らかにするため、申請者はこれまで輸出地近隣での両者の取引を分析してきた。そこでは、生産者(地主)が価格変動に敏感な反応を示すとともに、彼らの販売動向が米集散地の地域内の流通量に影響力を持ちうるほどであったことが示された。これより、主要生産地となるメコンデルタ西部の取引においても同様の傾向が想起される。しかしこの点については、統計的・史料的制約から仮説的なものに留まっている。

こうした制約は、東南アジア地域研究研究所図書館所蔵の、ベトナム語新聞をはじめ、その他統計資料に記載される米価や為替に関するデータを収集することで打破できる。本研究は新聞を中心としてこれらのデータをできる限り集め、関連資料と照らし合わせて実際の取引状況に整合性をもたせることで課題の達成を目指す。

本研究の意義は、生産地を含む地域内外の米価及び為替データを収集し、各地の取引状況に定量的・定性的裏付けを施すことで、輸出商品米流通の性格を明らかにすることにある。この研究は、地域内外からの食糧需要に対しベトナム南部がどう応えていたのかを実証するものとなる。

本研究の成果は、まず生産地を含む価格データ系列を構築することで、輸出港や海外との米価の相関が明らかになることである。これは、植民地化による市場開放がもたらす地域経済への影響を統計的に示すための初歩的作業となる。加えて、記述内容および申請者がこれまで収集した流通動向に関する史料を加味することで、上記課題への部分的な解明が期待される。

 


Nam Việt Tề Gia Nhựt Báo (Le journal de la famille annamite)
「南越家族日報」、1910 年代後半に発刊されていた。

Nam Kỳ Kinh Tế Báo (L’information économique de Cochinchine)
「南圻経済報」、1920 年代に発刊されていた。