- 研究代表者:北澤直宏(京都大学・大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)
研究概要
本研究は、ベトナム共和国・第二共和政期(1967–75)における、政治と宗教の関係を考察するものである。特に注目するのは、国内最大の宗教団体でありながら、政治僧や国会議員を多く擁していたことで知られる、統一ベトナム仏教教会である。その実態には多くの不明点が残されている仏教教会は、どのように政治力を蓄えていたのか。歴史資料の分析を通し、政治社会状況を明らかにする。
詳細
本研究は、ベトナム共和国・第二共和政期(1967–75)における国会の議論を分析することで、当時の政治社会状況を考察するものである。
1955 年から1975 年にかけて存在したベトナム共和国(通称:南ベトナム)は、当時より腐敗や独裁の代名詞として批判にさらされて来たことから、今日においてもなお評価が低い国家の1 つである。実際、1960 年代半ば以降の共和国では反政府デモが絶えず、そして、これらのデモを主導していたのが1964 年に結成された統一ベトナム仏教教会であった。平和や民主制の実現を求め活動を起こす仏教教会の姿勢が、当時の“ 知識人” たちから高く評価されていたことは事実である。しかしそれ故に、彼らに対する理解は抽象的な側面にとどまり、ベトナムそのものに対する理解は深められて来なかった。
そこで本研究は、仏教教会が多くの政治僧を抱えるだけでなく、複数の国会議員を擁していた事実に着目する。当時、最大の政治団体でもあった仏教教会は、政治力を蓄えることで、いかなる改革を行おうとしていたのか。東南アジア地域研究研究所に所蔵されているベトナム共和国官報及び国会議事録を通し、共和国における政教関係を考察する。また本研究は、同国の政治・社会状況を明らかにする試みでもある。政治過程や、国会における宗教団体や社会主義陣営の影響力を明らかにすることで、国内事情の理解を促進するのみならず、将来的な比較研究にも寄与することが期待される。
ベトナム共和国官報 |
ホーチミン市オペラハウス(旧ベトナム共和国下院) |