VI-6.「アタヤル語群の共時的及び通時的言語研究」(令和1年度 FY2019 新規)


  • 研究代表者:落合いずみ(神戸市外国語大学)

研究概要

台湾先住民族の言語であるアタヤル語群(オーストロネシア語族に属する)の言語──アタヤル語・セデック語──それぞれの現在の文法的側面と過去の文法的側面並びにそれらの間の変化の過程を、フィールド言語調査と文献調査の手法を用いて探求する。さらに、2 つの言語間の文法的側面を比較することにより、アタヤル語群祖語の文法的側面を明らかにする。

詳細

オーストロネシア語族は東南アジア諸島部を中心に太平洋・インド洋にまたがる地域に分布する大きな語族であり、その北端に位置するのが台湾である。さらに台湾はオーストロネシア諸語の発祥の地と見なされ、台湾先住民族の言語は語族全体からしても非常に重要な位置を占める。オーストロネシア祖語は最早期において10 の言語群に分岐したとされるが、その中のひとつがアタヤル語群である。本研究は最も古い分岐の内のひとつであるアタヤル語群の姿をフィールド調査による共時的な文法記述と先行研究との比較による通時的な歴史言語学的研究より鮮明にしようとする試みである。

アタヤル語群の文法が明らかになるということは、オーストロネシア語族のほかの9 つの分岐群との比較の精度がより増すということであり、ひいてはオーストロネシア祖語の姿をより明らかにする可能性を高めることにつながる。オーストロネシア祖語の姿がより明らかになることで、近隣の語群(シナ・チベット語族、タイ・カダイ語族、オーストロアジア語族)などとの比較の精度も増す。

アタヤル語・セデック語のフィールド言語調査と先行研究における記述の比較によりアタヤル祖語、セデック祖語のそれぞれの母音の音韻体系と歴史的変化を明らかにする。さらに、文法的に特徴的な包括構文(「私たちイバン」が「私とイバン」を意味する構文)についてアタヤル語・セデック語の比較と祖語への再構を行う。これによりアタヤル語群と他のオーストロネシア諸語を比較する上での、アタヤル語群の基盤がより確実になる。

 


台湾オーストロネシア諸語における「葉」の分布(Ochiai forthcoming)

アタヤル語の調査ノート中の一頁