IV-16. 「新型コロナウイルス感染拡大に伴うケアの意識・実践の変容──日本定住外国人看護・介護スタッフに焦点をあてて」(令和2年度 FY2020 新規)


  • 研究代表者:大野 俊(清泉女子大学・文学部)
  • 共同研究者:Mario Lopez(京都大学・東南アジア地域研究研究所)
  • 小川玲子(千葉大学・社会科学研究院グローバル関係融合研究センター)
  • 平野裕子(長崎大学・生命医科学域)
  • 安里和晃(京都大学・大学院文学研究科)
  • 村雲和美(筑波大学・大学院人文社会科学研究科)

研究概要

新型コロナウイルス(COVID-19)の集団感染は、日本各地の病院や介護施設で発生した。こうした職場では、東南アジア出身者を中心に外国人スタッフが勤務しているケースがある。 本研究は、コロナ禍がもたらす、看護・介護移民のケアの実践や意識の変容に焦点をあてる。日本人の同僚スタッフとの間における労働環境、意識面などの相違にも着目する。

人手不足が深刻化していた介護分野では近年、海外人材への依存度が増す傾向が強まっていたが、コロナ禍は医療機関や介護施設の経営にも悪影響を与えており、彼らの雇用面への影響にも注目する。

詳細

新型コロナウイルスの感染者急増は日本では 2020 年 3 月以降の現象であり、日本国内の外国人ケア人材と新型コロナウイルス感染拡大に起因する社会的変化を関連づけての先行研究は皆無である。その意味では、パイオニア的な研究となるだろう。

看護・介護業務に従事するスタッフは、職場で患者や利用者との身体的接触が避けられず、ソーシャル・ディスタンスはとりにくい。こうしたジレンマ状況に置かれる外国人スタッフのケアの実践や感覚、海外就労についての意識などに何らかの変化が起きているとみられる。経済連携協定(EPA)で来日する介護人材の大半は母国で看護系の学校を卒業しており、今後、一層の医療的配慮が必要とされる介護現場では彼らの看護知識の強みが生かされる可能性がある。全般に日本人スタッフよりも厚い信仰心なども、危機に直面してのケア行為の上で重要な要素となっているだろう。上記の解明は、彼らとの間で誤解や意識の差異が起きやすい日本人スタッフとの共働の円滑化のうえでも重要である。

ケア人材の送出し国としては、EPA の枠組みで看護・介護人材を送り出すインドネシア、フィリピン、ベトナムに着目するほか、介護分野での技能実習生が増加傾向にあるミャンマーや中国にも注目する。彼らの来日・帰国動向を含め、国別・性別・年代別の相違にも注目する。

当面はキーインフォーマントを対象とするオンラインなどでの個別面談が調査の中心となるが、将来的には関係先への配布票調査を含む、より包括的な研究への発展を企図する。

研究成果は、国内外の研究会、セミナーなどの催しの場で発表し、学術誌にも投稿する。マスメディアを通じても研究成果を発信し、日本の医療・福祉分野における外国人看護・介護労働者たちの貢献や抱える諸問題について一般市民の認知度向上にも寄与する。また、多数の看護・介護移民が働く米国や、日本に看護・介護移民を送り出している中国など海外の研究機関との研究協力強化にもつなげる。

 


勤務先で常時、マスク着用で利用者の介護にあたるフィリピン人介護福祉士
(2020 年 5 月下旬、福岡県内の介護老人保健施設で撮影。 写真は、彼女の同僚が撮影)

研究メンバーのインタビューに応じる介護スタッフら(2020 年 7 月初め、東日本の介護施設で、大野俊撮影)