- 研究代表者:細淵倫子(京都大学・東南アジア地域研究研究所)
- 共同研究者:甲山 治(京都大学・東南アジア地域研究研究所)
- Almasdi Syahza(リアウ大学・地域連携研究所)
- Edi Junaedi(インドネシア中央統計局・サービス部門)
- Surya Saluang(サトゥカタ)
研究概要
本研究はインドネシア(リアウ、中カリマンタン、パプア)の熱帯泥炭荒廃地における「ひと」と「土地」に着目し、歴史・社会・経済・法・ガバナンスの視点からの分析を通して、住民主体の泥炭地管理の在り方を考える。具体的には、本分析を通して持続的な泥炭地管理を行うための地域密着型の組織作りとそれを支える制度、パートナーシップの在り方の提案および住民主体の泥炭地利用のためのモニタリングとそのデータの活用、管理・制度、運営の仕組みのモデルケースの提示をめざす。
詳細
本研究では、インドネシアの熱帯泥炭荒廃地における「人」と「土地」の歴史的、社会的、経済的、法的、ガバナンスの分析に基づき、コミュニティ主導の泥炭地管理のための組織、管理システム、パートナーシップを提案することを目的としている。
インドネシアにおける熱帯泥炭地の総面積は約 2,250 万 ha を占め、世界中で30%の炭素資源をもっている。熱帯泥炭地に関する研究は土壌・ 農業・水利・景観について継続的に行われており、1990 年代になると、南スマトラ、ジャンビ、リアウ、中カリマンタンなどの泥炭湿地林の開発が進んだことにより、生物多様性の減少や火災のリスクが注目されるようになった。そして 2012 年の大規模火災を契機に、低生産性、泥炭湿地の沈下、強酸性化による土壌劣化などの問題が再度着目され、泥炭地域社会の問題としてだけではなく、世界規模での環境保護の観点から熱帯泥炭地は取り上げられるようになってきた。
そのような世界の関心と呼応し、地方自治体は州だけでなく県、郡単位での自治の強化・運営を独自路線で進めるなかで、泥炭地という「新しい資源」の活用を目指している。大規模開発の反省から、いまは産業としての利用だけでなく、適切な技術を駆使し、住民の生活に密着した形での利用を目指している。
具体的には、衛星データを用いた泥炭地の炭素含有量の評価、降雨・水位・流量データを用いた水文水質観測、衛星情報データを用いた地形・植生・土壌・土地利用データの解析(樹木の高さ・樹冠径・森林蓄積量の解析、泥炭地の土壌水分量の調整、ホットスポットの解析)により、泥炭地の適正な利用を促進している。そして、この成果を住民に還元し、コミュニティ主導で「泥炭地」という地域の管理が行われることが目指されている。
しかし、現段階では経済的なインセンティブによる一時的な組織化が目立つ状態である。また泥炭地は多くの住民にとっていまだ「開発の対象」とみなされ、利権を持たない住民の無関心を助長している。プロジェクト参加者とそうではない人との経済的な格差を生む引き金ともなっている。さらには火災や洪水が頻繁に発生している地域では不在地主問題や、産業林と住民との土地所有・利用にかかわる問題がいまも存在している。維持管理には膨大な費用がかかることがあり、住民組織ができても広大な土地をコミュニティ主導で管理することが難しい。
このような現実をうけ、本研究では再湿地・再植林・森林再生、水文気象観測データを用いた降水量と水資源の有効利用、ホットスポット分析や火災管理手法をコミュニティへ還元し、コミュニティ主導で行える泥炭地管理のありかたを提案する。また、泥炭地のパートナーシップの在り方や住民をささえる仕組み・制度(土地・社会保障・経済)のモデルケースを提示する。さらには、住民主導で行える効果的なモニタリングや基礎データの活用方法の指標および評価軸を開発する。これらの試みは熱帯泥炭荒廃地におけるコミュニティ主導型の地域政策を推進する上で重要な役割を果たすものである。
なお、本研究では、2016 年から 2019 年までの期間、泥炭復興庁が最優先地域として指定したリアウ、中カリマンタン、パプア地域を対象地とする。
熱帯泥炭地社会の人々の暮らし(リアウ州) |
現地住民による泥炭地環境モニタリング(リアウ州) |