VI-2. 「インドネシアの保健政策における統治性の問題」(令和2年度 FY2020 新規)


  • 研究代表者:阿由葉大生(東京大学・大学院総合文化研究科)

研究概要

近年、出生・死亡率の統制、公衆衛生、住民の健康への配慮などの「生政治」についての研究が蓄積されてきた。インドネシアの「生政治」は、民主化以降大きな変化を経験した。従来は、公務員のみが公的保険に加入し、貧困層が生活保護の対象であったのに対して、2014 年から全居住者を対象に強制加入の公的医療保険が導入された。本研究は、民主インドネシアにおける新たな「生政治」の登場とともに、医療がどのように再編されたのか文献調査とセンサスデータ分析をもとに明らかにする。

詳細

国民健康保険の創設とともに、従来は各基礎自治体の公衆衛生を担ってきた保健所の役割が、公衆衛生から外来診療へと大きく変化した。本研究は、インドネシア語の医学誌・公衆衛生学会誌などの資料を基に、これら保健所がいかに保険診療施設へと姿を変えたかを明らかにする。また、診療の実際について実証的データを収集するため、インドネシア国勢調査データを活用した研究会への参加を通じて、社会経済データの活用について理解を深める。

生政治研究と医療人類学・医療社会学を架橋することが本研究の意義である。従来の一連の生政治研究および、申請者のこれまでの研究は、保険技術を活用した統治理性の誕生というマクロな側面に注目してきた。一方、医療人類学には、保険による医療実践への制限についての研究蓄積がある。本研究は、医療サプライヤーの認識や知識の変化というメゾレベルについて、インドネシア医学雑誌の分析やセンサスデータを活用してアプローチしようとする。

申請者はこれまで、インドネシアの医療経済専門家が、いかに保険を通じた生政治を行ってきたかを明らかにしてきた。その結果、同国の社会保障改革を支える要素として、公務員改革、公務員─ 学会の間の知的サークルの存在、独裁時代からの動員システムを指摘してきた。本研究は、そうした知見を念頭に置きつつ、医学コミュニティの側から同国の社会保障制度改革に光を当てようとするものである。

 


ここでは、インドネシア国勢調査データを活用している各分野の研究者との討議を通じて、社会経済データの活用について理解を深めた。コロナウイルス感染症対策として、風通しの良いオープンスペースを研究会会場として選択した。

当初予定していた文献収集が困難であったため、インドネシアの医療従事者や医療経済学者のオンラインミーティングへの参加(左上)、オンラインで公開されている公衆衛生分野のインドネシア語学位論文(右下)の分析を行った。