- 研究代表者:Piyada Chonlaworn(天理大学・国際学部)
- 共同研究者:小泉順子(京都大学・東南アジア地域研究研究所)
- Taweeluck Pollachom(ワライラック大学・言語教養学部)
- 日向伸介(大阪大学・大学院言語文化研究科)
- Pattayarat Thamwongsa(国立ディスカバリー博物館研究所・学術開発科)
研究概要
本研究はタイ各地にある民間の博物館を通して、国家像と国民像がこれまでどのように展示され、認識されてきたのかをマイノリティの人々から検討するものである。具体的には、19 世紀からタイに移住した華僑・華人、1950 年代から活躍した共産党主義者、セックスワーカー等の社会の周縁に位置づけられてきた人々に着目し、彼らの存在が博物館や資料館の展示を通してどのように認識されているのか、地域のアイデンティティとどのように結び付けられているのかを、歴史・文化人類学・博物館学の観点から検討するものである。
詳細
本研究は、タイにいる中国系移民、共産党主義者、セックスワーカーに着目し、タイ国民国家の形成過程のなかで周縁的、かつマイノリティの存在である彼らの物語が、どのように描かれてきたのかを、地方自治体や民間の博物館から明らかにしようとする試みである。また、過去40 年間の経済・社会変動のなかでタイ人の国家像・国民像はどう変わったのか、これからどう変わるのか、博物館や資料館はタイ人の教育と記憶にどのような役割を果たしているのかを明らかにする。
博物館・遺跡・遺物からみたタイの国民国家形成に関する従来の研究は、古代から近代にかけて、国家が歴史をどのようにつくり、どのようにナショナリズムを支える装置としてきたのか、その過程を検討してきた。しかし近代国家形成の過程のなかで、外国人労働者や市井の人々の存在と役割が展示としてとりあげられることは皆無であったと言ってよい。本研究は、国立博物館にくわえて、民間および地域博物館に焦点を当てることにより、中国人コミュニティ、社会主義者、共産党主義者、セックスワーカーの生い立ちや歴史が、タイ各地の民間の博物館と資料館を通じてどのように語られてきたのかを多様な観点から検討し、国立博物館の公的な歴史展示からは見えてこないタイの国家と国民像が明らかになると期待される。
バンコクの繁華街パッポンの歴史とそこで働いたセックスワーカーを展示するパッポン博物館 |
バンコクのマッカサン地区にあるタイ労働者博物館 |