IV-7.「新型コロナウイルス感染拡大に伴うケアの意識・実践の変容──日本定住外国人看護・介護スタッフに焦点をあてて」(令和2-3年度 FY2020-2021 継続)


  • 研究代表者:大野 俊(清泉女子大学・文学部)
  • 共同研究者:小川玲子(千葉大学・社会科学研究院グローバル関係融合研究センター)
  • 平野裕子(長崎大学・生命医科学域)
  • 安里和晃(京都大学・大学院文学研究科)
  • Mario Lopez(京都大学・東南アジア地域研究研究所)
  • 村雲和美(筑波大学・大学院人文社会科学研究科)

研究概要

新型コロナウイルス(COVID-19)は 2020 年 3 月以降、日本各地に感染が拡大し、病院や介護施設ではクラスター感染が相次いで発生した。こうした職場では外国人スタッフが勤務しているケースが少なくない。本研究は、コロナ禍がもたらす「看護移民」や「介護移民」のケアの実践や意識の変容に焦点をあてる。コロナ禍は彼らの職場にも大きな影響を与え、日常の業務や生活に変化が起きている。危機の医療・福祉現場で彼らが置かれた立場、役割、日本人スタッフとの人間関係の変容にも着目する。

人手不足が深刻化の一途を辿る介護分野では、パンデミック前まで海外人材への依存度を増す傾向が強まっていた。コロナ禍は、労働者の国際移動の制限や医療機関・介護施設の経営悪化も招いている。そうした状況下での海外人材の雇用面の変動についても調べる。

詳細

看護・介護業務に従事するスタッフは、職場で患者や利用者との身体的接触が避けられず、コロナ禍でもソーシャル・ディスタンスはとりにくい。こうしたジレンマ状況に置かれる外国人スタッフのケアの実践や感覚、海外就労についての意識などに何らかの変化が起きているとみられる。経済連携協定(EPA)で来日する介護人材の大半は母国で看護系の学校を卒業しており、医療や防疫上の配慮が必要とされる介護現場では彼らの看護知識の強みが生かされている可能性がある。また、全般に日本人スタッフよりも厚い信仰心・宗教心も、コロナウイルスによる死亡例を見る可能性のある外国人看護・介護スタッフの意識形成面で重要な要素となっている可能性があり、直目していきたい。

上記の解明は、彼らとの間で誤解や認識のずれが起きやすい日本人スタッフとの共働の円滑化のうえでも重要である。

ケア人材の送出し国としては、EPA の枠組みで来日した者が多いインドネシア、フィリピン、ベトナムのほか、介護分野での技能実習生や留学生が増加傾向にあるミャンマーや中国にも注目する。また、彼らの来日・帰国動向にも注目する。研究メンバーの2名は九州海外人材育成委員会(事務局・福岡)に所属しており、そこの委員である介護関連事業者の協力も得て聴き取り調査を進める。

研究成果は、国内外の研究会、関係業界にも研究成果を発信し、日本の医療・福祉分野における外国人看護・介護労働者たちの貢献や抱える諸問題について一般市民の認知度向上にも寄与する。また、多数の看護・介護移民が働く米国や、日本に看護・介護移民を送り出している中国など海外の研究機関との研究協力も行い、さらなる研究の発展につなげる。

 


外国人介護スタッフに面談する研究チームのメンバー(九州地方の介護施設で)

研究チームのメンバーとインドネシア人看護・介護スタッフらが意見交換したオンライン・セミナーのチラシ