V-1.「伝統的流通の発展──インドネシアの流通革命に対する農家とパサールの商人」(令和3年度 FY2021 新規)


  • 研究代表者:池田真也(茨城大学・農学部)

研究概要

近年の途上国農業の大きな転換点として、スーパーマーケット主導の近代的流通の台頭という流通面の変化が注目される。地場に根付いた伝統的流通を拠り所にする小規模経営農家が行き場をなくし、農業の生産基盤が衰退することが危惧されるからである。しかし本書はこの認識を問い直し、ジャワの農産物流通で在来流通メカニズムが再興している点を、産地から消費地までの商人を追う詳細な流通調査と計量経済的実証手法で明らかにしている。

詳細

スーパーマーケットに代表される近代的流通の途上国での拡大を背景に、国際開発の文脈において農家のバリューチェーンへの参加に注目が集まっている。その中で、在来流通を非効率なシステムとして切り捨てるのではなく、在来流通の弾力的な発展可能性を考慮することの重要性を学識者、開発実務関係者、さらには日本の先進農業関係者と共有することが本書の刊行の目的である。途上国の流通を担う「商人」の動態に関心を寄せる類書はこれまでも少ないながらも存在した。しかし、日々場所を変える在来商人に対する調査の難しさとその実証分析の難しさから、産地を出発点として少なくとも都市部の卸売市場の商人まで遡るようなアプローチ方法が取られることは稀であった。本書は長期間のフィールドワークを必要とするこのアプローチ方法を取ることで、流通の動態を立体的に把握している。具体的には、本書は農産物流通論で見られる「流通の場の設定」による調査と、開発経済学を基礎とする売手と買手の売買契約の分析を組み合わせているのである。一方で、農家のバリューチェーンへの参加は途上国だけの問題ではなく、日本の農業関係者も直面する課題である。そのため、先進技術に携わる日本の農業者、流通関係者の国際協力を即すという点においても本書の意義が認められると考える。

 


売り頃の野菜を探索する集荷商人(西ジャワ州チアンジュール県の調査地で筆者撮影、2012年9 月20 日)

スーパーマーケット・サプライヤーの倉庫内で見られる野菜の選別・加工作業(西ジャワ州バンドン県の調査地で筆者撮影、2019 年8 月27 日)