The Nippon Foundation Fellowships for Asian Public Intellectuals


Makoto Nomura 野村 誠

Makoto Nomura
野村 誠

作曲家

日本センチュリー交響楽団コミュニティ
プログラムディレク ター

千住だじゃれ音楽祭 ディレクター

日本相撲聞芸術作曲家協議会 会員

http://www.makotonomura.net/

プロジェクトのテーマ

タイ、インドネシアにおける共同作曲実践とドキュメンテーションー原子力発電を題材に

プロジェクト概要

原子力発電について、タイとインドネシアの音楽家と議論をし、それに基づく共同作曲を行う。音楽、テキストは、全てコラボレーションを通して創作する。映像、録音、楽譜としてドキュメントを行う。

研修国

インドネシア、タイ

自己紹介

 ぼくは、音楽家で作曲家です。ぼくにとって、音楽とは、第6感を含めた全感 覚的による音体験を意味します。音を聴くだけでなく、音を観る、音を匂う、音 を 味わう、音を触る、音を霊感する。そして、音楽は、コミュニケーションで あるため、いつ、どこで、誰が発し、誰が受け取るか、ということが、非常に重 要です。ですから、一回の音楽体験というのは、その時間、場所、その場にいる 者(神や動物や地球や星々なども含まれます)に、密接に結びついていており、 二度と同じ体験はできません。吹いている風は、次の瞬間どこかに消えてしまう ように、音楽を捕まえることもできません。バリ島で遭遇した儀礼の音楽も、そ の日、その場でしか体験ができない音楽ですし、老人ホーム「さくら苑」でふ わっと立ち上がった音楽も、あの日、あの場にいなければ、決して聴くことので きなかった音楽です。別の場所に移動した瞬間に、表層的な形は残せても、その 音楽のエッセンスが消えてしまうのです。圧倒的なエネルギーと、移動できない ナイーブさは、表裏一体の関係にあります。    
 そうした音楽について、即興音楽、コミュニティ音楽、民族音楽などの場で は、時に論じられることはありますが、現代音楽や作曲の文脈で、話題になるこ とは、非常に少ないのです。というのは、作曲とは、何度でも再演できること、 時代や場所や演奏者が異なっても、同じ体験ができる仕組みを指すからです。音 楽の一回性、時/場所/人、に着眼することは、作曲家にとっては触れてはいけ ない「パンドラの箱」なのかもしれません。そのことを考えることは、タブーに なります。    
 しかし、音楽は、時間と場所と人により、その場で立ち上がり消えていく一回 性の体験であることと、こうした一回性の奇跡の音楽体験を、追体験したい願望 としての作曲、という矛盾に、どうやって折り合いをつけていったら良いのか? そのことの試行錯誤こそが、ぼくの作曲人生です。時間と空間と人と共有した音 楽を、時間と空間と人を越える旅をさせる仕組みを作ること。そのことを、ぼく は作曲と呼びます。    
 APIでの プロジェクトでは、タイとインドネシアで、原発に関するディスカッ ションを経て、共同作曲を行いました。インドネシア、タイの作曲家達が、ディ スカッションの内容と共同作曲を、無理に関係づけようとしなかったことに、衝 撃を受けました。音楽の自律性を大切にすること。感性や直感と、言語や科学の 論理の間で、どうバランスをとること。それは、彼らから受け取った大きなメッ セージでした。課題だと感じました。APIのリサーチのドキュメントとして、以 下のウェブサイト(http://asiancomposers.jimdo.com/)を立ち上げ、音源、イ ンタビュー(日本語、英語、インドネシア語の3カ国語)、画像などをアップし ております。

プロフィール

  1968年、名古屋生まれ。京都大学理学部在学中、作曲サークルLASを結成し、 アメリカ実験音楽をテーマにした3夜連続のコンサート「ケージバン」をプロ デュース。90年、バンドpou-fouを結成。翌年、Sony Music EntertainmentのNEW ARTISTS AUDITIONグランプリを受賞し、92年CD「Bird Chase」をリリース。 94~95年に、ブリティッシュ・カウンシルの招聘で英国ヨーク大学大学院で研 修。英国の創造的音楽教育を研究し、小中学校で共同作曲の実践を行う。95年、 水戸芸術館5周年記念「ローリーホーリーオーバーサーカス」展にて、吹奏楽と ロックバンドによる「でしでしでし」を発表。96年、ジャワガムランと児童合唱 のための「踊れ!ベートーヴェン」を日本とインドネシア7都市で上演。同年、 鍵盤ハーモニカ8重奏団「P-ブロッ」を結成。98年、pou-fouの作品を下敷きに した2台ピアノのための「ナマムギ・ナマゴメ」が、オランダ、ベルギーで(ミ デルブルグ現代音楽祭ほか)、向井山朋子+大井浩明により、日本では、高橋悠 治+高橋アキにより初演される。98 年、三絃の高田和子の呼びかけによる 「糸」のために「つん、こいつめ」を作曲。99年、高齢者施設での共同作曲を開 始。また、共同作曲法「しょうぎ作曲」を考案。01年~05年に、ガムラングルー プ「マルガサリ」(中川真主宰)と、全5幕のシアターピース「桃太郎」を創 作。01年、ピアノと管弦楽のための「だるまさん作曲中」を作曲(初演:東京シ ティフィル、本名徹次指揮、ピアノ向井山朋子)。04年より、「動物との音楽」 に取り組み、ペットが来ても良いコンサートを、Ikon Gallery(英バーミンガ ム)で開催。 映像作品「ズーラシアの音楽」を「横浜トリエンナーレ05」で発 表。04年、山口情報芸術センターにて、しょうぎ作曲をベースにしたオーケスト ラコンサート「しょうぎ交響曲の誕生」を開催。また、Hugh Nankivellと 「Whaletone Opera」を開始。06年度、NHK教育テレビで音楽番組「あいのて」を 監修。21の番組の作曲と番組内容に全面的に関わり、自身も赤のあいのてさんと してレギュラー出演する。04年より、アジアの即興音楽をリサーチするプロジェ クト「i-picnic」を開始。06年より、3分の鍵盤ハーモニカ・トリオの新作委嘱 を開始し、カフェ、ギャラリーなどで、現代音楽を何度も再演する。06年、取手 アートプロジェクト、ゲストプロデューサー。07年、えずこホール住民参加音楽 劇「十年音泉」を総合監修。地元住民300人以上が出演し、演劇、音楽、ダン ス、美術が交差した。09年、ロンドンの国際交流基金にて、鍵盤ハーモニカに関 するレクチャー/コンサートを開催。09年、Hugh Nankivell と「Keyboard Choreography Collection」を開始。 銭湯のお湯を演奏する「お湯の音楽会」を 「福岡トリエンナーレ2009」で発表、10年、バタ足によるリズムアンサンブル、 水中で楽器を演奏する「プールの音楽会」を「あいちトリエンナーレ」にて発 表。映像とピアノによる「老人ホーム・REMIX」、北斎漫画に描かれた音楽を創 造する「野村誠×北斎」などを発表。  

 作曲作品に、「アートサーカス」(弦楽四重奏)、「オルガンスープ」(オル ガン)、「NO NOTES」(任意の楽器アンサンブルのための)などがあり、 Bochumer Symphoniker、御喜美江、松原勝也、藤原真理、マルガサリ、高橋悠 治、高橋アキ、宮田まゆみ、大田智美などが野村作品を演奏している。  
 「Kontraste Festival」(オーストリア)、「Zommer Jazz Fietstour」(オ ランダ)、「Lille 2004」(フランス)、「Japan 2001」(イギリス)、「竹山 国際芸術祭」(韓国)、「Festival Musik Tembi」(インドネシア)などのフェ スティバルに招待される。

また、Charles Hayward、Carl Stone、Soon Kim、大友良英、梅津和時などと即 興演奏で共演、山下残(振付家)、島袋道浩(美術家)、荒井良二(絵本作 家)、吉増剛造(詩人)らとコラボレーション。

第1回アサヒビール芸術賞、JCC ART AWARDS現代音楽部門最優秀賞などを受賞。

  著書に「音楽ってどうやるの」「即興演奏ってどうやるの」(あおぞら音楽 社)、「老人ホームに音楽がひびく」(晶文社)、「音・リズム・からだ」(民 衆社)、「音楽づくりのヒント」(音楽之友社)などがあり、楽譜はマザーアー ス株式会社より出版されている。CDに「ノムラノピアノ」、「せみ」、 「INTERMEZZO」、「しょうぎ交響曲の誕生」などがある。2014年4月、日本セン チュリー交響楽団コミュニティプログラムディレクターに就任。樅山智子、鶴見 幸代と日本相撲聞芸術作曲家協議会を設立。