The Nippon Foundation Fellowships for Asian Public Intellectuals


Jun Akamine 赤嶺 淳

Jun Akamine
赤嶺 淳

一橋大学
大学院社会学研究科
地球社会研究専攻
教授

http://www.balat.jp/

プロジェクトのテーマ

ナマコ資源の持続可能な利用にむけての利害関係者間対話の構築と促進

プロジェクト概要

乱獲が懸念されているナマコ類の利用と管理をめぐり、漁民や加工者、輸出商、研究者など、さまざまな利害関係者間の対話を促進し、マレーシアにおけるナマコ資源の管理の問題点をあきらかにするとともに、持続可能な利用にむけてのプラットフォームを構築する。

研修国

マレーシア

自己紹介

 1997年から、フィリピンとインドネシアを中心に「ナマコ類の利用と管理」に関する研究をおこなってきました。研究すればするほどナマコの魅力にとり憑かれるばかりで、ナマコ研究はライフワークだと思っています。ですが、その中間報告として2010年に『ナマコを歩く——現場から考える生物多様性と文化多様性』(新泉社)を上梓することができました。
 もちろん、わたしのナマコ研究の原点は、東南アジアのみならずフィールドワークや研究という行為のおもしろさと奥深さを教えてくれた故鶴見良行さんの『ナマコの眼』(筑摩書房、1990年)にあります。しかし、鶴見さんが『ナマコの眼』を書くために東南アジアの島じまを歩いていた1980年代と、現在とのちがいは、ナマコが「環境問題」になったことにあります。  
 たしかにナマコ類は、歴史的にも海域アジアにとって重要な商品でしたし、今日の東南アジアでも無視できない資源のひとつです。2013年8月から7カ月間におよんだマレーシア滞在では、ナマコ類のあらたな利用として石鹸やローションなど、非食用の利用について関心をいだきました。中国で健康食品として知られているナマコが、「健康と美容」という人類共通の願望に貢献しようとしているのです。また、こうしたナマコ製品は、マレーシアのリゾート開発とも無関係ではありません。ほかの果物や薬草などと混合し、ナチュラル志向を打ちだしながら、スパと癒やしをもとめてくる観光客に照準を合わせているようにも見受けられます。  
 また、サメ類についても、マレーシアでは日常的に消費されることを興味深く観察してきました。鯨類と同様に、サメを食べることじたいを野蛮とみなす見方も少なくありません。干ナマコ同様にフカヒレも海域アジアにとって重要な商品です。だからこそ、「資源管理」という今日的課題に背をむけず、ナマコやサメにまつわる、およそ300年にわたる歴史に想いをはせながら、わたしは「生物多様性と文化多様性」の保全バランスという現代的な課題にとりくみたいと思っています。  
 今、東南アジアの島じまでなにがおこっているのかを丹念に記述する一方で、さまざまな利害関係者とともに、それぞれの地域にあった持続可能な利用法を模索し、あきらかにしていきたいと考えています。こうした活動が「研究実践」や「社会還元」と言えるかどうかはわかりませんが、これまでの研究活動で考えてきたことを、東南アジアの人びとと議論しながら、ナマコ類やサメ類の「持続可能」な利用を、少しでも前に進めていきたいと思っています。その際、おなじくナマコ類やサメ類を利用している日本の生産者・加工業者・流通業者など、異なる地域・異業種との交流を積極的におこない、さまざまな経験から問題を多角的に把握し、少しでも問題解決に資するような研究をおこなっていきたいと考えています。  
 将来的には、鯨類の利用をめぐって繰り返される文化間衝突についても勉強し、「野生生物の利用」についての認識を深めて行きたいと考えています。