The Nippon Foundation Fellowships for Asian Public Intellectuals


Tomoko Momiyama 樅山 智子

樅山 智子

Tomoko Momiyama
樅山 智子

作曲家

プロジェクトのテーマ

変容する文化的アイデンティティーに直面した土着の伝統音楽の知覚と実際:21世紀初めにおける、タイとインドネシアの伝統音楽の研究

プロジェクト概要

タイとインドネシアの各地域に基づいた音楽コミュニティーの中で、その土地固有の音楽の着想、表現、伝達といった過程の観察を通じて、人々のアイデンティティー形成の文化的背景を研究した。各地で民族音楽の調査を行うと同時に、作曲家として現地の芸術家たちと交流・共同制作し、この調査研究から得た自分の経験を主に音楽作品・芸術活動といった媒体によって表現し、伝えることを目標とした。具体的には、主にインドネシアで下記三項目のアートプロジェクトを実施した。

「Tanabata Festival」

バンドゥンのアルタナティブ・アート・スペース、Bandung Center for New Media Artsにレジデンス・アーティストとして滞在。七夕祭りを軸とした日本―インドネシア間の文化交流のプロジェクトを企画し、現地の幾つかの芸術NPOと共同で開催した。バンドゥン在住の子供達とのフィールドワークやワークショップを重ね、「希望」についての対話から「Lagu Tanabata Tetanggaku(となりの七夕唄)」を作曲し、子供達の演奏で発表した。

ジョグジャカルタ現代音楽祭「Between Noise and Silence」

第一回ジョグジャカルタ現代音楽祭に参加し、ジャワの楽器と西洋音楽の楽器を用いた「The Dance of a Tree God II: in Indonesia!」を作曲、現地の音楽家の演奏で発表した。

「Upacara Bayu Ruci: Making Love with the Winds of Solo」

カラガンニャール地方政府観光局とスラカルタのスピリチュアル・リーダーの協力を得て、中央ジャワのスクー寺院にて、風神を礼う儀式パフォーマンスを企画実施した。イギリス人美術家と日本人舞踊振付家のほか、現地のガムラングループやダンサー、そして寺院周辺の村の住民達とともに作品を創り、発表した。

研修国

タイ・インドネシア

自己紹介

作曲家。スタンフォード大学音楽学部、及び人間生物学部卒。東京、横浜、金沢、中国、アメリカ、オランダ、タイ、インドネシアなど、国内外で実験的な音楽・芸術活動を展開。それぞれの場において現地の人々と協同作業を行い、人と人、人と社会、人と環境の関係性から有機的に生まれてくる物語より作品を創り、発表している。日常と非日常の間を行き来する旅をデザインし、共有される時空間の記憶から新たな共同体の民俗音楽を紡ぎだすことを試みている。様々な分野の表現者との対話を通じて、既存の枠組みを超えて多角的な視点から現代社会に働きかける芸術の創出を目指す。金沢21世紀美術館、アジア欧州基金、横浜市芸術文化振興財団、ジョグジャカルタ現代音楽祭、ボードウィン・サマー音楽祭他、招聘作曲家。明治安田生命社会貢献プログラム「エイブルアート・オンステージ」第2期パートナー、平成20年度文化庁新進芸術家海外留学制度研修員。

帰国後の主な活動について

2010年2月 「A Cave Dream」

オランダの古楽アンサンブル「nywebyrth」の委嘱により新曲を発表。
初演会場:コルゾー劇場(オランダ、ハーグ)

2009年7月~現在  「DOE 2.0」

複数の言語や異文化間を行き来しつつ、ジェンダーやセクシュアリティーの問題を横断し、女という生そして死を考える日米国際演劇プロジェクト「DOE 2.0」にドラマツルグとして参加。羊屋白玉(演出家)とトリスタ・バルドウィン(戯曲家)のクリエイティブ・パートナーとして、今後数年かけて新作を創作し、ワーク・イン・プログレスの公開公演を経て、日本、アメリカ、イギリス各地で発表する。
主催:指輪ホテル(東京) 共催:プレイライツ・センター(アメリカ、ミネアポリス)

2009年9月~11月  「A Song Pouring」

カメラジャパン・フェスティバル主催「Kappalai」展の委嘱をうけ、濱野貴子(美術家)とともにサウンド・アート作品シリーズ「A Song Puoring」を共作発表した。「A Song Puoring」は、プライベートとパブリックの境界線上に立ち、過去の記憶から未来の記憶へ秘密の歌を注ぐ、観客参加型のインスタレーション作品である。「掻っ払い」をテーマに集まったオランダ人と日本人の展覧会参加アーティストにインタビューを行い、録音した音源をもとに作品を創作、ロッテルダム市ハーベン・ミュージアムの歴史的な船舶の船室において展示した。「Kappalai」展は、9月にロッテルダム市で開催された後、10月にはライデン市に移動し、異なるコンテクストにあわせて再構築した作品をシーボルト・ハウスにて展示した。
主催:カメラジャパン・フェスティバル 共催:ウィット・デ・ウィット・ストリート・フェスティバル
会場:ハーベン・ミュージアム(オランダ、ロッテルダム)、シーボルト・ハウス(オランダ、ライデン)

2009年4月 「Ballade for Lost Waters」

オランダ社会における人と自然環境との関係を考察するため、特に水に焦点をあててオランダの街を旅し、その旅の経験からパフォーマンス作品を創るプロジェクトをMelissa Cruz(美術家)とYamila Rios(電子音楽家)とともに開始した。ハーグ市政府、及びオランダ水路管理局Hoogheemraadschap van Delflandの協力を得て、干拓堤防や運河、風車やポンプ場などハーグ市内の様々なロケーションにてハイドロフォンを用いて水中の音を録音し、それらを編集したテープとライブ・エレクトロニクス、そして打楽器のための新作を作曲した。そうして紡ぎだされたパフォーマンス作品「Ballade for Lost Waters」は、音と無音、光と影が互いに絡み合うなか、観客が共に聴こえない音に耳を済ますサウンド・ビジュアル・ポエトリーである。2009年4月、スプリング・フェスティバル2009の一部として王立音楽院キース・バン・バーレンザールにて初演され、以来ハーグ市各地で再演を重ねた。
初演会場:王立音楽院キース・バン・バーレンザール(オランダ、デン・ハーグ)

2008年1月 「『次元を跨ぐ旅』 ~地図から生まれる音楽~」

金沢21世紀美術館の「荒野のグラフィズム:粟津潔」展関連事業として、4日間の作曲ワークショップ「次元を跨ぐ旅~地図から生まれる音楽」を企画・実施した。一般公募で集まった20代から70代までの世代も国籍も音楽経験も異なる7人の金沢市民の参加者とともに粟津潔展を廻り、心の揺れを記号化する対話を重ね、その共有した旅の経験から協同で一つの音楽を作曲した。そうして生まれた作曲作品「21世紀の子守唄」を、粟津潔展の会場を舞台にアンサンブル形式で発表した。
主催・会場:金沢21世紀美術館 (石川県金沢市) / 企画協力:マイノリマジョリテ・トラベル

2007年11月 第五回アジア・ヨーロッパ・ダンス・フォーラム「Pointe to Point」

アジア・ヨーロッパ財団の招聘を受け、中国で開催された第五回アジア・ヨーロッパ・ダンス・フォーラム「Pointe to Point」に日本人作曲家として参加した。アジアとヨーロッパの13カ国から選ばれた他の作曲家・インプロバイザー5人、およびコンテンポラリー・ダンスの振付家12人とともに創作活動を行った。伝統と現代、都市と地方、そしてダンスと音楽の関係といったテーマについて考察するため、貴州ミャオ族自治区の村々を訪ね、その旅の経験をもとに北京で舞台作品を創った。ワークショップを通して参加者同士の芸術的な交流を深めると同時に、作品を発表することによって北京の観客との対話を試みた。
主催:アジア・ヨーロッパ財団 / 共催:中国舞踊家協会 / 会場:中国芸術学院(中国、北京)

2007年3月 「はまみっくす(ヨコハマ+リミックス)」

横浜みなとみらいホール2006年度アーティスト・イン・レジデンスとして、作曲家の鶴見幸代と音楽評論家の三橋圭介とともに「はまみっくす(ヨコハマ+リミックス)」プロジェクトを企画・実施した。公募で集まった7歳から56歳までの横浜市民の参加者を巻き込んで一ヶ月に渡る創作活動を行い、横浜を巡るフィールドワークをもとに横浜についての音楽を共同作曲した(オリジナル作品)。その後レジデンス・アーティストがそれらのオリジナル作品を素材としてリミックスし、新作を作曲した(リミックス新作)。プロの演奏家を迎えて横浜みなとみらいホールにて公演を行い、市民参加者とともにオリジナル作品とリミックス新作を発表した。横浜を旅し、そこから生まれる心の揺れをリミックスという手法を用いた音楽作品として表現することによって、色々な視点を通して初めて見えてくる多元的な横浜を舞台に浮かび上がらせた。
主催・会場:横浜みなとみらいホール(神奈川県横浜市、財団法人横浜市芸術文化振興財団)
企画協力:マイノリマジョリテ・トラベル

2006年4月 マイノリマジョリテ・トラベル第一回公演 「東京境界線紀行『ななつの大罪』」

2005年6月、演出家の羊屋白玉(指輪ホテル主宰)とプロデューサーの三宅文子とともに、音楽・演劇・エデュケーションの各分野をクロスオーバーして活動するアート・アクション・ユニット「マイノリマジョリテ・トラベル」を設立し、以来代表を務める。個々人、そして個人の共同体である社会の内面に混在する多様なアイデンティティの境界線の内と外を行き来する旅を重ね、そこから生まれるパラダイム・シフトの瞬間を芸術表現に転換する試みを続けている。実験的な作品発表を通して社会に働きかけることによって、現代社会における複雑なアイデンティティの問題を掘り下げることを目標としている。
2005年度は、明治安田生命社会貢献プログラム「エイブルアート・オンステージ」参加事業第2期パートナー団体として支援を受け、マイノリマジョリテ・トラベル第一期プロジェクト「東京境界線紀行」を開催した。「障害」と「健常」の二元論的な枠組みに疑問を投げかけ、「自らの特徴や背景のマイノリティ性によって社会生活において障害を経験したことがある」人々を公募したところ、身体障害、性同一性障害、摂食障害、気分障害、セクシュアル・マイノリティ、ホームレス、在日外国人など、さまざまなマイノリティのアイデンティティを抱え「障害」を自覚する表現者等がオーディションで集まった。それらのメンバーがともにキャラバンを組み、互いのコミュニティーを訪ね、多層に混在する東京のサブカルチャーの迷路を旅した。コンテクストが常に変容する旅の過程において経験されるアイデンティティのユレやブレの瞬間を、表現ワークショップを通して共有し、分野横断的なパフォーマンス作品に転換した。1年に渡る創作プロセスの結果として、2006年4月30日にマイノリマジョリテ・トラベル主催公演「東京境界線紀行『ななつの大罪』」を発表。東京都交通局の協力を得て都バスを貸し切り、バスの中、ストリート上、劇場の中で起こる三部構成のパフォーマンス・イベントを行った。
主催:マイノリマジョリテ・トラベル / 共催:エイブル・アート・ジャパン
会場:東京都バス(中野区、新宿区)、spaceEDGE(渋谷)
協賛:明治安田生命保険相互会社 / 協力:東京都交通局