The Nippon Foundation Fellowships for Asian Public Intellectuals


Ayame Suzuki 鈴木 絢女

Ayame Suzuki
鈴木 絢女

同志社大学法学部
准教授

プロジェクトのテーマ

「マレーシアにおける政治的権利を制限する立法の成立と運用の研究」

プロジェクト概要

本研究の目的は、マレーシアにおける「半権威主義体制」の特徴の一つである政治的権利を制限する法が、(1)どのような内容を持ち、誰のどのような意思によって、どのような過程を経て成立したのか、(2)どのように適用され、どのような意思決定の方式を成立せしめたのかという問いに、国会議事録、報道、ニューズレター、インタビューにもとづき接近することである。特に今回の調査では、一般的に「開発体制」が成立したと理解されている1980年代後半から1990年代初頭に焦点を絞った。

研修国

マレーシア

自己紹介

私はこれまで、マレーシアの政治体制を研究してきました。具体的には、同国の政治体制の特徴をなす政治的権利を制限する法の内容、成立過程、実施に焦点をあて、「半権威主義体制」、「開発独裁」、「アジア的民主主義」など、様々に類型化される同国の政治体制をよりよく説明、理解しうる理念型を提示することを目的とし、研究を行いました。

横浜市の内陸部で育った私が世界の政治に関心を向けるようになったのは、高校、大学時代を過ごした20世紀最後の10年のことでした。政治体制の民主化、民族紛争、難民といった問題に関する情報が怒涛のように流れてくる中で、私は、人々が自分の運命の決定者になろうとしたり、それに失敗して自身の福祉や生命が他人の意図に左右されるような状況に追い込まれたりする様を、衝撃を受けながら見ていました。個人の福祉は政治共同体の中でしか保障されないからこそ、自分たちの共同体を作ろうとする人々の営為があるにもかかわらず、その過程で、ある成員を排除してしまおうとする意思が働く場合があること。また、ひとたび共同体ができあがっても、共同体成員の意思の対立が紛争や共同体の崩壊に帰結してしまう可能性があること、逆に、共同体の名のもとに成員間の意見の違いを許さないような強い力が出来上がってしまう場合があること。個人と共同体の間のこのような緊張関係は、私の問題意識の核を成しています。

個人と共同体の共存を可能にする方法は様々でしょう。その中で、民主化がこれを可能にするという主張がありますが、歴史の浅い共同体においては、自由と民主主義の原理を同時に実現させることができず、紛争や独裁に帰結してしまう場合があるということも我々は知っています。

それでは、どういう政治制度が望ましいのか。特に、自由や寛容といった価値を学習する十分な時間を持たなかった若い政治共同体が、どういう政治制度のもとで、大規模な対決や暴力を回避しながら、政治発展を達成しうるのか。この問題を考えた時に、「独裁」というラベルを貼られてはいるものの、成員間の意見の違いをある程度認め、出版、投票、集会等によって個人が共同体の決定に影響を与えることを可能にするような制度を持ち、また、複数の民族が、排除、抑圧、暴力に訴えることなく共同体内で共存しているマレーシアという国の政治体制とそれを支える政治制度に強い興味を持ちました。

APIの支援を受けた調査では、与野党政治家、NGO指導者、官僚、研究者、ジャーナリストなど、様々な立場の方とお話する機会を得ました。私が現地調査の中で出会ったのは、答えのない世界で、様々な立場の人々が、自身の福祉を追求しながらも他者との共存が可能となるような政治制度を模索する姿でした。また、共同体の統合状況への危惧や、「共同体の意思」による個人の意思の抑圧や軽視という、当事者が重視する問題もあらためて浮き彫りになりました。

個人と共同体の調和的共存という未完のプロジェクトに、自分がどのように関わっていくことができるのか。これからもじっくり考えていこうと思っています。