The Nippon Foundation Fellowships for Asian Public Intellectuals


APIフェローセミナー
[第2部]
フィリピン台風被災地と支援活動の現状・課題
~フィリピン台風被災地支援のために~


日時:2014年3月2日(日) 15時~17時20分

会場: 京都大学東南アジア研究所 中会議室
    京都市左京区吉田下阿達町 46

発表概要

a. 「前へ進んで:台風ハイヤンよりの教訓―大学そして個人のケース」
  ロザリー・B・アルカラ・ホール

   (フィリピン大学ヴィサヤ校:フィリピンAPIフェロー 2004-2005)
                                (英文概要より和訳:田口雅英)

(1)私の大学の台風による被害:
  (a) フィリピン大(UP)タクロバン・キャンパスの荒廃、人的被害(死者等)、
   クラスの崩壊、
  (b) 台風による、イロイロ・ロハス・北アンティケ州等の出身学生(約60名)の家と
   家計収入への被害

(2)イロイロ北部のパートナー・コミュニティーの荒廃

(3)大学の対応
―被災地への立ち入り調査と、イロイロ及びマニラからの、UPタクロバン・キャンパスへの複合的救援活動; 100名に及ぶ学生の受け入れ(UPタクロバンより、UPイロイロ及びミアガオ、住居と食事の提供も含む)、北部イロイロにおける、Christian Aid(国際人道団体)との救援活動における連携

(4) 個人(私と夫)としての対応
―外部からの寄付の窓口として:API (タイとインドネシア)、海外在住の知人・家族よりの援助→UPヴィサヤ校の救援活動へ、UPタクロバンへの衛生キット・教科書、学用品等を集める為に

(5) 研究者として
: Peace Winds America ワークショップ への参加(2014年1月22-23)


b. 「パラワン島コロンの先住民タグバヌア族コミュニティの支援活動について」
  米野みちよ
(フィリピン大学ディリマン校)
          (発表内容作成:米野みちよ、ジョバンニ・レイエス)

 台風ハイヤンは、通常の台風とは異なり、北上する代わりに西方へ進み、レイテ島のあと、ビサヤ地方を横断しました。マスコミの報道は、レイテ島やサマール島に集中しておりますが、パラワン・コロン島でも大きな被害が出ました。

 コロン島は、先住民タグバヌア族の土地ですが、1970年代に、考古学者ロバート・フォックス氏のチームが発掘調査をして先住民の墓地を掘り起こして以来、時のマルコス大統領に国の特別保護区に指定され、それ以来、先祖伝来の土地を奪われております。住民組織が、先住民の土地問題を専門とするNGO連合KASAPIのパートナーとなり、測量支援など土地問題に関わってきました。このたび、台風による大被害を受け、村のすべての建物は壊れ、村に百艘以上あった漁船がすべて壊されてしまいました。11月8日の台風直撃の2日後10日に連絡を受けたKASAPIは、ちょうどポーランド・ワルシャワで開かれていた国連地球温暖化会議にて、その国際パートナーを通じて、11月12日と16日の二回にわたって世界へのアピールを行いました。すぐに世界各国から支援が集まりました。

 フランスの支援団体から、ゴムボート供給の申し出がありましたが、住民代表と協議の結果、舩や家を修理するための木材や道具が最優先されるべき、とコンセンサスが得られました。また日常生活でも水・食料や衛生用品が不足しており、優先事項と決めました。12月8—12日にかけて、それらを届けることができました。今は、スイスの団体からもまとまった金額のオファーが来ています。食料等の支援を継続しておこなっていますが、今回の台風では、遠浅だった漁場が荒れてしまったため、中長期的には、彼らの生活を見直す代替案などにも取り組む必要があります。

 ちなみに、今回の台風では、イロイロ島でも先住民のコミュニティが被害を受けました。KASAPIはここでも支援を行っております。寄付金は随時受け付けております。(Kasapi, Inc. DBP (普通) 0450-027557-030, Development Bank of the Philippines, Philippine Heart Center Branch, Swift Code: DBPHPH).
 どうぞよろしくお願いあげます。


c. 「顔の見えるささやかな支援ーFriends of BATISの取り組み」
  園崎寿子
(英語・タガログ語通訳、神戸女学院大学英文学科非常勤講師)
   (報告者出席不可の為、企画者田口が報告原稿を代読)

(1) BATIS Center for Women(バティスセンターフォーウィメン)
 フィリピンのNGO、フィリピンから日本への移住女性とその子どもたち(おもにJFC Japanese Filipino Children) を支援。園崎はフィリピン留学中にバティスでボランティアをしていた。
バティスには多くの日本人ボランティアが関わっている。

(2)被災者支援の要請:2013年12月、バティス事務局長ジーナさんから被災者支援への協力要請。

(3)Friends of BATIS:友人、知人に呼びかけFriends of BATISとして、主に日本で寄付を呼びかける募金はちらほら – 出遅れ、日常の活動なし

(4)児童養護施設「野の花の家」からの寄付
 バティスの元職員で、現在児童養護施設職員をしている人から連絡あり。子供たちからの寄付。

(5)支援先:ルソン島最南端ソルソゴン州マトノグ
 レイテ、サマールなどの大規模被災地ではないが、沿岸部の6家族が家を失い、政府や支援団体による援助も全く届いていない。

(6)今後: 今後の可能性(検討中):ex.被災地の子どもへの奨学金, 困窮しているJFCへの奨学金,JFCが集まり、いろんな思いを共有できる場としてのワークショップ開催など
 皆様のご協力お願いたします。ご興味のある方は下記へご連絡ください。
   BATIS Center for Women:batiscenter(at)yahoo.com 
                    (at)は@に変更してください。
   園崎寿子: 園崎氏への連絡をご希望の方は、企画者の田口雅英 
          tmotohide(at) hotmail.com までご連絡ください。


d. 「京都の学生による、災害復興への試み」
  マーク・クリスチャン・マニオ
(Kyoto Association of Pinoy Scholars)
                                (英文概要より和訳:田口雅英)

 2013年11月に、レイテ島とボホール島を襲った台風ハイヤンに対し、京都フィリピン人研究者連盟(the Kyoto Association of Pinoy (Filipino) Scholars (KAPS))は、被災地への寄付を集めるため、幾つかの活動を行った。
 立命館大学NGOサークル(Rits BLOH)、NPO法人アクセス・NPO法人チャーム といった組織と共に、728,932円の募金を集めた。その他、ポスターや募金箱の設置、関連イベントへの参加、NHK地方局でのニュースで放送されたさらなる援助の要請、京都駅のような人通りの多い所での募金活動、等のような活動を行った。
 集まった義援金は、被害を受けた学校設備の修復の為に、レイテとボホールのフィリピン赤十字に寄付された。


e. アメリカでの台風ハイヤンへの支援活動
  クリストファー・マグノ
(ガンノン大学講師、セブ島出身)
  フィリップ・パーネル(インディアナ大学教授)
                                 (日本語概要作成:木場紗綾)

マグノ:「アメリカでの台風ハイヤンへの支援活動」
 アメリカのフィリピン人コミュニティは、毎年のように発生するフィリピンの台風被害に際して、毎回、多くの募金を集めている。そのノウハウ、支援先の選定、募金の用途の追跡の方法を紹介する。

パーネル:
 米国人でありながら長くマニラの都市貧困層の調査を続けてきた法人類学者として、災害支援における長期的な課題を提起する。災害によって遺産相続の書類を失った貧困層は、誰が、どのように支援すべきか。無限に出てくる貧困層の問題を、どこまで線引きして「災害復興支援」とすべきなのか。


f. 「研究者としての被災地支援」
  渡邉暁子
(文教大学)、日下 渉(名古屋大学)

 このセミナーに先立って13時より行われた「研究を通しての被災地支援と、研究と実践のネットワーク作りの可能性を探る会」での議論の紹介。(渡邉担当分)
 台風ヨランダについては、高波による沿岸部の壊滅的な被災と、被災者支援をする政治の機能不全(あるいは政治の過剰)に焦点があてられてきた。本報告では、年末年始に行った2週間の調査に基づいて、ココナツ農民の生計喪失と人口流出という「もうひとつの被災」と、ココナツ産業における収奪と貧困の継続という「もうひとつの政治」に焦点を当てたい。(日下担当分)

                 (上記の内、渡邉発表分の概要は、作成・文責:田口雅英)


g. 「自然災害にアートを通して関わること
  ーフィリピンの美術家・アルマ・キントの活動事例からー」
  中西美穂
(アートマネージャー、大阪大学大学院文学研究科博士後期課程)

 自然災害にアートを通してかかわる方法、場所、時期、期間、人は多様である。被災地に限らず困難な状況にある人々の集まるコミュニティでのアートプロジェクト研究においては以下のような特徴があると指摘されている。(1)アートという非日常をそのコミュニティに出現させることにより日常への意識を取り戻す。(2)創作活動を通して、被災者のアイデンティティ崩壊を防ぐ。(3)創作作品(絵画や曲、演劇など)がプロジェクト実施の場所や時間を越えて人々に困難な経験を語り直す機会を与える。
 フィリピンの美術家アルマ・キント(Alma Quinto)は2006年のビコール、2011年のカガヤンデオロ、そして昨年のタクロバンにおいて、アートプロジェクトを現地のNGOやマニラの芸術家仲間らと協働で実施している。そこでは(1)(2)(3)に示した特徴が実際に見られる。
 なお本発表では、この事例の他に、フィリピンのマニラ近隣の若手アーティストら中心となりインターネットとアートマーケットシステムを活用して行った「ART FLOOD 2013」や、バギオの環境保護NGOコーディリエラグリーンネットワークが中心となり被災地とバギオの高校生が自然素材のアートカードを交換した取り組みなど、フィリピンでのアートを通した台風被災地への関わりの一端を紹介する。
<取材協力>Alma Quinto、Mariano Ching、反町眞理子、ふるさかはるか、JUN、他


h. 「どこに募金すればいいのか:支援団体の選定と評価の方法」
木場紗綾
(神戸大学国際協力研究科研究員:在タイ日本国大使館:APIフェロー 2009-2010)

台風ハイヤンの緊急支援には、日本からも、WFPなどの国際機関への政府開発援助、JICAと自衛隊から構成される国際緊急支援隊による医療活動や輸送支援、NGOネットワークによる支援、個別のNGOの支援など、さまざまな支援の形態がみられた。各組織はそれぞれに課題を抱えながら、よりよい支援を実施しようとしている。政府よりもNGOのほうがきめ細やかな支援ができるに違いないとの先入観、自衛隊とNGOは相容れないとのイメージ 、「フィリピンで既に活動しているNGOだから信頼できる」との思い込みを排し、多角的な視点で支援形態を評価することが必要である。本報告では一例として、特定の国や地域を専門とする支援団体と世界中に支部のあるNGO, 災害支援に特化した団体と開発を専門とするNGO, 日本のNGOと国際NGOなど、さまざまな形態のNGOを比較し、それぞれの長所、短所について考えると共に、一団体だけでは決して完結できない支援の難しさを指摘し、政・官・軍・民といった様々なアクターが、異なる専門性を有する組織の間で教訓やノウハウを共有する仕組みづくりを提案する。

(概要は、特に記載のないものに関しては、各発表者の作成したものを用いた。ただし、a,c,gの一部を、企画者田口による判断で、スペースの都合上省略した。)

※プログラムのPDFはこちらからどうぞ。

*セミナーの様子はこちらからどうぞご覧ください。

*当日被災地支援活動への募金を集め、ロザリー・B・アルカラ・ホールさんより、フィリピン大学ヴィサヤ校の被災地支援活動に寄付していただきました。その使途につきましては、同大学のHP(こちら)をご覧ください。