環境共生研究部門・特定助教
博士(理学、京都大学)
専門分野は河川生態学・魚類生態学
修士から博士課程にかけては、京都大学理学研究科の動物生態学研究室にて、川の魚や虫のニッチ利用パターンならびに食物網構造の解析などを行ってきました。その後神戸大でのポスドクなどを経て、今年度より京都大学フィールド科学教育研究センターから同東南アジア地域研究研究所 (CSEAS) へ特定助教として異動しました。研究テーマは、河川群集・生態系の構造およびその動態の決定要因に関する研究です。研究スタイルは野外での観察や採集といったローテク中心で、必要に応じて環境DNAや同位体などのハイテクを利用することもあります。最近では、2007年より継続している魚類の個体数と生息環境の長期モニタリングデータをもとに、集水域でのシカによる林床破壊の影響が、隣接する上流部の河川を介して、下流部において河川環境の変化を引き起こし、小石に覆われた川底を好む種(ウグイ)の減少や砂地を好む種(カマツカ)の増加といった影響をもたらすことを示した論文を発表しました。
CSEASにおける私の一番大きな特徴は、おそらく「人間以外の生き物に興味がある(というか人間にあまり興味がない)」という点だと思います。そもそも人間社会を研究材料とする人が大多数のCSEASにおいて、こうした私の性分はほぼ間違いなく浮くと思いますが、共同研究の場面などで自らの役割を定めるのはむしろ楽かもしれません。現在私は、CSEASほかの共同研究者らとともに、インドネシアスマトラ島のカンパル川ほとりにある漁村でのプロジェクトの準備を進めています。プロジェクト全体としては、村落周辺の泥炭地火災やアブラヤシプランテーションをはじめとした環境問題に対するステークホルダー(行政や地元住民)の意識調査や、それらをもとにした問題解決策の提案が主ですが、私はその中で、人以外の生き物の調査から有益な提案ができないかと検討しています。例えば、雨季になると水没する河川周辺の森(水没林)は、もともと耕作不適地として開発が後回しにされてきましたが、近年開発されたものの、しばしば上手くいかずに放棄されて利用価値のない荒地として放置されています。一方で水没林は、魚類にとって産卵場所や稚魚の生育場として非常に重要であるとされ、河川漁業の持続可能性を保証する上で重要な場所といえます。河川魚類の生態調査を通して上記のような水没林の重要性が新たに示されることで、今後そうした放棄地の森林回復や水没林の積極的な保全活動を提案できるかもしれません。人からの情報取得といったアプローチは、たとえ日本語でも私には難しいですが、私は人以外の生き物から情報を拾うことができます。今後はインドネシアに限らず、東南アジアの様々な現場にお邪魔して、生き物からのアプローチでその地域の新たな面白さを見つけたいと考えています。