cseas nl75 新任スタッフ紹介

足立 真理
ADACHI Mari

政治経済共生研究部門・機関研究員
博士(地域研究、京都大学)
専門分野はインドネシア地域研究、イスラーム経済

 2019年4月から機関研究員を務める足立と申します。私はインドネシアのイスラーム、特に喜捨や慈善、社会福祉的側面について研究をしています。生まれも育ちも大阪府の私は、慈善や寄附行為に関して「えぇかっこしい(見栄っ張り)」であると感じていました。その反面、ずっとあこがれも抱いていたので、今のテーマにつながっているのかなと思います。

 大阪大学外国語学部でアラビア語を専攻すると、ザカートと呼ばれる義務の喜捨が、礼拝や断食、巡礼と並ぶムスリムにとっての最重要信仰儀礼だと学び、ほとんど福祉目的税ともいえるようなシステムが7世紀から構築されていることに驚きました。人類学者の大塚和夫が提唱した神と信徒の互酬性理論にならえば、ザカート拠出は究極的には本人の救済のためであるから、信徒間で富める者から貧しいものへの慈善という垂直的な関係にはならないという指摘も大変興味深く、このザカートについて掘り下げようと決めました。エンゲルスがいうような「富裕層が労働者を搾取しながらその己の利己心をきわめて卑劣な偽善で隠す、うぬぼれた行為」にザカートは該当しないのではないかと考えたのです。この制度ならば持続的に、かつ偽善的でもなく寄附が行われているのではないか、理論だけではなく、実際の行動を知ってもっと深く研究したいと思うようになり、地域研究が学べる京都大学大学院まで進みました。フィールドをアラブから、世界最大のムスリム人口を有するインドネシアにフィールドを移すと、イスラームの多様性についても身をもって学びました。そこでは様々な寄附実践を行う人々と出会い、自らの吝嗇さを自覚するとともに、インドネシアの土地、人々、歴史から深く学ぶべきことがあると確信し、今に至ります。

 東南アジア地域研究研究所での半年は、他分野、他地域の研究者に囲まれ、学ぶことの多い刺激的な日々です。特に同室のポスドク研究者は国際色豊かで、日本人の私がマイノリティという特殊な状況を楽しんでいます。任期の間に自らの研究を発展させ、いくばくか地域研究に寄与できるよう邁進してまいります。どうぞよろしくお願いいたします。