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第19回東アジア勉強会
2015/04/11 @ 1:30 PM - 6:00 PM
オープンな会ですので、みなさまのご参加をお待ちしております。
尚、場所等はHPでも確認できます。
https://sites.google.com/site/dongyamianqianghui/
日時:2015年4月11日(土)
場所:
京都大学 総合研究2号館 4階 第一講義室(AA401)
会場(京都大学吉田キャンパス・百万遍キャンパス)までの道のりは、以下のアクセス・マップをご覧下さい。
https://www.asafas.kyoto-u.ac.jp/about/access
キャンパスマップ(34番)
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/access/campus/map6r_y.htm
プログラム:
13:30 開場
14:00 発表1:Dr. Paul D. Barclay (京都大学地域研究統合情報センター・外国人客員研究員)
「『台湾原住民』の誕生:人類学的絵葉書の普及と浸透をめぐって」
15:00 討論
16:00 発表2:片岡樹(京都大学)
「架空の言語と架空の識字力?:タイ国における大乗系漢文経典の知識」
17:00 討論
18:00 終了
●研究会終了後(18:30~)、懇親会をおこないます。こちらもご参加ください。
●発表1
Dr. Paul D. Barclay (京都大学地域研究統合情報センター・外国人客員研究員)
●タイトル
「『台湾原住民』の誕生:人類学的絵葉書の普及と浸透をめぐって」
●要旨
This talk will take a visual-studies approach to Indigenous-outsider relations toinvestigate how the interdependent technologies of photography, postcard production, and ethnic classification contributed to “top-down” and “bottom-up” forms of ethnogenesis in Taiwan. I will argue that Mori Ushinosuke’s森丑之助1902-1903 portraits of two married couples near “Kusshaku” 屈尺were the first successful photographic documents of “Atayalness” to be made under Japanese colonial rule. For the photographer, these anthropometric-photographs constituted an argument for Indigenous ethnic integrity, to counter the prevailing Qing-Japanese discourse on “savages” (fanren or shengfan). At the same time, postcard producers and newspaper editors recaptioned these photos to change their meanings to satisfy consumer appetites or to buttress other political positions. In both registers Mori’s Kusshaku photographs proliferated across several media and even across continents. This talk re-opens the discussion on these contested artifacts because post-colonial “exposés” that assert the abject nature of the represented peopleshave failed to mitigate the continued re-circulation of anthropometric photographs in Taiwan today. “Why,” this presentation will ask, “does race refuse to die, despite over a century of concerted intellectual effort to debunk it as a form of pseudo-scientific false consciousness?”
●発表2
片岡樹(京都大学)
●タイトル
「架空の言語と架空の識字力?:タイ国における大乗系漢文経典の知識」
●要旨
タイ国の中国廟や大乗仏教寺院では漢文の経典が用いられており、その知識は政府の同化政策によって中国語母語話者人口が激減するなかでも継承され続けている。では漢文経典を知っているとはどのようなことを指すのか?何ができれば漢文経典を読めることになるのか?文化人類学のリテラシー論は、単なる読み書き能力を越えて展開・運用されるさまざまな人と文字の関係をこれまで明らかにしてきた。本報告ではこの論点を、タイ国の漢文経典知識の事例から考察してみたい。
タイ国で最も頻繁に用いられる漢文経典(念経)の用語は、いわゆる「國語」(北京官話)でも潮州語でもなく、「五音」と俗称される、経典用の特殊な人工言語である。「五音」とは、広東地方で用いられていた南部訛りの北京音をベースとし、それを用いる僧侶の母語に応じて広東語、潮州語、客家語などの読み方が混入したもので、タイ国には19世紀に広東出身の大乗僧によってもたらされた。さまざまな方言を無差別に混合した結果、この言語は意思疎通の手段としてはまったく機能していない。タイ語では「パーサー・プラ(僧侶の言語)」と呼ばれるように、「五音」は経典を読みあげる場合に限って用いられる言語である。
「五音」の知識は、かつては僧院内の師弟関係を通じて継承されていた。こうした個人的な知識の継承においては、どの字をどの方言で読むかは師匠の母語背景によって規定されることになり、「五音」念仏は多様なバリエーションのもとで常に変化を遂げてきたと考えられる。また、当時はルビのない白文がテキストとして用いられていたため、師匠からの口伝によるほかは学習手段をもたず、そのため「五音」は僧院内の秘儀的知識となっていた。
しかしバンコクのある印刷所が1980年代よりタイ文字ルビ版を発行するようになり、その結果として「五音」経典が大乗僧院の外(廟、善堂、在家念仏会など)に広汎に普及することとなった。このことは、「五音」の知識の継承媒体が、師匠の口伝から印刷物のタイ文字ルビへと移行し、多様な偏差が標準化され固定されたことを意味している。
もっとも「五音」のバリエーションや変化は、一部で依然として維持されている。一部の文字については、しばしばタイ文字ルビとは無関係の読み方が行われている。これはタイ文字ルビ版の普及後も、この合成言語の発展が依然として継続中であることを示している。また印刷テキストのルビ自体も、必ずしも統一されているわけではない。印刷所に持ち込むクライアントに応じ、同じ字でも多様なルビが印刷されている。
ではそもそも、何ができたら漢文経典を読めたことになるのか。ここでは次の二点を指摘しておきたい。
ひとつは、タイ語ルビ版の普及が、漢文知識を限りなく架空のものとしつつある点である。そもそも「五音」というのは母語話者をもたない言語であり、しかも複数の中国語方言を恣意的に混用するため、ルビの助けがないと読めないテキストとなっている。これはようするに、現在の「五音」念仏知識が、タイ語識字力を前提とし、それに寄生して維持されていることを意味する。
その極端な例は、タイ文字でのみ表記される真言である。梵語を訳さずに漢字をあて、その漢字を「五音」で読み、そこにタイ文字のルビをふり、さらに一般普及用に漢文を除去したテキストが幅広く流通している。この場合、漢文経典の念仏とは、タイ文字で音写された梵語の暗記を意味することになる。
もうひとつは、念仏におけるテキスト外の因子への依存である。「五音」は別名「広府板」とも呼ばれ、ここでの板とはメロディーを意味する(漢文経典の朗唱は楽器を併用するなど音楽性が高い)。この文脈では、「五音」経典を読めるというのは、すなわちテキストに書かれざるメロディーを含めて暗記することを意味する。
読経に節をつける場合、語調を整えるために不規則な読み方が生じる。繰り返し、特定の文字の二度読み、テキストに書かれていない語句の補足などがそれにあたる。これらに習熟しない限り、「五音」経典を適切に読むことはできない。
これらを端的に示す例が、施餓鬼会(中元普度)などで用いられる、高度に複雑化した儀礼テキストである。そこでは読経以外に合唱、独唱、起立、着席、さらには一連の印を結ぶ所作なども求められる。タイ国において「『五音』を読める」知識の頂点に位置するのが、こうしたテキストとは無関係な総合的パフォーマンスである。
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連絡先:佐藤 若菜(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士後期課程)
Email: w-sato [at] asafas.kyoto-u.ac.jp
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詳細
- 日付:
- 2015/04/11
- 時間:
-
1:30 PM - 6:00 PM
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