日本の焼畑に受け継がれてきた在来知の現代的意義 ―東南アジアとの比較視座からの検討

研究代表者鈴木 玲冶(京都学園大学・バイオ環境学部)
共同研究者:黒田 末壽(滋賀県立大学・人間文化学部)
      増田 和也(京都大学・東南アジア研究所)
      安藤 和雄(京都大学・東南アジア研究所)

実施期間:2011-2012年

 

研究概要:

草地の火入れ(余呉町中河内私有地)。斜面上方から下方へゆっくりと火が下りていき、土にも しっかり火が入った。

草地の火入れ(余呉町中河内私有地)。斜面上方から下方へゆっくりと火が下りていき、土にもしっかり火が入った。

伝統的な焼畑は原始的・環境破壊的な農法ではなく、作物栽培と森林再生をうまく組み合わせた合理的・循環的な農法である。本研究では、文献調査、参与観察、聞き取り調査により、日本の焼畑に受け継がれてきた技術や知恵を体系的にまとめなおし、東南アジアにおけるこれまでの研究蓄積と比較検討しながら、日本の中山間地域の食糧生産にこれらの技術や知恵を活かす手段を検討し、循環型社会・脱化石燃料社会に求められる生業モデル構築のための基礎資料を提示する。

 
 
 

詳細:

低木林での火入れ(余呉町中河内共有林)。火入れが一段落つき、斜面下方から焼畑地を眺め る参加者達。

低木林での火入れ(余呉町中河内共有林)。火入れが一段落つき、斜面下方から焼畑地を眺める参加者達。

大量生産・大量消費型社会に伴う諸問題の克服には、最先端の技術革新に加え、これらの問題が顕在化する以前の生業の中で、経験的・伝統的に培われてきた技術や知恵に学ぶことも必要である。本研究では、東南アジアと日本の焼畑の比較を通じ、山地の生態資源を活かした循環的な食糧生産手段としての焼畑の現代的意義を問い直し、循環型社会・脱化石燃料社会に求められる生業モデル構築のための基礎資料を提示する。日本各地には、伝統的な焼畑が今なお継承されている地域がわずかに残るが、そこで焼畑を営む人々の大半は高齢で、後継者もほとんどいないのが現状である。彼らの記憶に刻まれた豊富な知識や経験を最大限に引き出して記録に残していくことは、学術的にも意義が大きく、循環型社会・脱化石燃料社会を構築する上でも、極めて意義深いものである。

焼畑で栽培される作物は日本の食卓に並び得ないわけではなく、現在は、より安価に生産された作物にとって代わられているに過ぎない。戦後の燃料革命により、その役割をガスに奪われた薪炭とは、この点が決定的に異なる。特に、現在の日本の焼畑で栽培されている主要な作物であるカブは、焼畑で育てた方が品質がよいといわれており、温海カブや藤沢カブなど、様々なブランドのカブが栽培されている。地域の自然を活かした特産品の生産、無農薬農業や地産・地消の重視など、市場経済原理とは異なる価値を付加することで、焼畑の技術や知恵を活かした新たな生業モデルの構築に寄与する成果が期待される。

 
 

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