研究代表者:広田 勲(名古屋大学・生命農学研究科)
実施期間:2014-2015
研究概要:
東南アジアで広く行われてきた「伝統的」焼畑農業は、人為的攪乱環境の効率的な利用を特徴としているが、過去の文献から、かつては人為的攪乱環境と焼畑農業が深く結びついておらず、現在観察されるような「伝統的」焼畑農業が行われるようになったのは比較的最近であると予想される。本研究は現在「伝統的」とされる焼畑農業がいつ頃形成されたのか明らかにすることを目的とする。本研究により、現在の焼畑農業を歴史的観点から相対化することが可能になる。
詳細:
東南アジア大陸山地部で広く行われてきた焼畑農業においては、耕作地とともに様々な林産物を供給する休閑地が重要である。ここで得られる林産物の多くは人為的攪乱環境を好んで生育する植物であるため、焼畑農業全体のサイクルを支える上では人為的に攪乱された植生が重要であり、この環境の効率的利用が東南アジア大陸山地部で「伝統的」に行われてきた焼畑農業の大きな特徴であると考えられてきた。しかしながら申請者がこれまで調査を行ってきたラオス北部は、19 世紀後半のフランスのPavie や日本の岩本千綱等が残した過去の文献を辿ると、当時焼畑が行われていた村落周辺の植生が二次林ではなく処女林に近い環境であったという記述がしばしば存在する。このことから、かつては人為的攪乱環境と焼畑農業が強く結びついておらず、現在のような効率的な環境利用が行われるようになったのは比較的最近であると予想することができる。本研究は、東南アジア大陸山地部で行われた探検隊等の過去の調査記録を当たることで、人為的攪乱環境を効率的に利用するような現在「伝統的」とされている焼畑農業がいつ頃形成されたのかを明らかにすることを目的とする。
本研究により、焼畑農業の歴史的変遷とそれに付随する植生や植物利用の変遷の過程を追いかけることができ、現在観察されるような「伝統的」焼畑農業を歴史的観点から相対化することを促
すものであり、意義がある。また近年、焼畑農業が禁止され土地利用が常畑化していくことに対する批判から、「伝統的」焼畑農業を再考しようとする動きがある。このような動きは即座に否定されるものではないが、ここで想定されている「伝統的」焼畑農業は過度に単純化され、固定化されたイメージが先行している。本研究により、焼畑農業に対する新しくより豊かな視点を提供することができる。