私の発表では、新研究所の基幹プロジェクトの一つである『日ASEAN協働による超学際・生存基盤研究の推進』(Japan-ASEAN Platform for Transdisciplinary Studies)のもとでの設置された附置センター「ASEAN研究プラットフォーム」の活動をご紹介します。
いままでの1年、そしてこれからの5年間の活動のキーワードとなるのは、「超学際研究」です。私たちは、これを以下のようなアプローチとして位置づけています。
学術の分野・領域を超えて、多様な知識や技術を、産・官・学・市民社会から結集することにより、超学際的に問題の解決を図る。21世紀の国際社会にみられる複合要因に起因する問題にあたり、持続可能な共生社会を実現するための研究。
この「超学際」という言葉は耳に新しい方もいらっしゃるかもしれませんが、英語では「トランス・ディシプリナリー」というタームで人口に膾炙しています。
私達はながらく京都大学を発信場所として、新しい地域研究のかたちを世界に問うてきました。その過程では、「通分野」「地域間比較」「文理融合」「インター・ディシプリナリー」「相関型地域研究」「マルチ・ディシプリナリー」など様々なアプローチが提出されてきました。この「トランス・ディシプリナリー」は、いままでの地域研究の新しいフェイズの一つとして位置づけられるものです。
21世紀に入り、地球環境の劣化、経済格差の拡大、文化・宗教摩擦、急速な高齢化、国家領域を超える感染症の拡大、大規模化する自然災害等、人類社会の持続性を脅かす問題が噴出しています。私たちは、20世紀型の発展を支えた豊富な資源と安定した自然環境、単一の国家を単位とした政策などを前提とする社会のありかたを再考すべきであると考えます。これらの問題群は相互に関連しており、個別の問題への対症療法には限界があり、新しい地域研究の設計が必要であると考えます。
私たちが過去に取り組んできた「生存基盤研究」は、世界が相互参照すべきすばらしい特質を東南アジア社会がもっていることを明らかにしました。すなわち、バランスあるハイブリッド成長、レジリアンスをもった柔構造社会、環境・資源の循環利用に支えられた多種共生ならびに多文化共生といったものです。これらを東南アジアはその歴史のなか実現してきましたが、現在、21世紀型の複合的問題に直面している事も現実です。
このような「超学際」および「生存基盤」研究が対象とする領域は、多岐にわたります。環境問題、自然資源ガバナンス、村落開発、経済発展と所得分配、民主化、政治変容、高齢化、健康、福祉、都市化、過疎化、感染症、災害等が現在、本プロジェクトがサポートする研究です。
新研究所では、人文・社会科学系研究者の設計のもとでの文理融合研究が行われています。時間の制約から個々の研究成果の説明を省かせていただきますが、詳細はウェブサイトをご覧いただければと思います。
本研究プラットフォームでは、とくに日本と東南アジアの新しい関係性を作り上げることに意識的でありたいと考えています。まずは「地域のリアリティ」から問題解決型「知」の抽出することを第一義とします。北半球由来のパラダイムを南に持ちこむ前にもう一度立ち止まって現地のリアリティに照合することを今一度心に刻みながら、イコールパートナーシップのもと、現地の研究者や実務者からの学びを通して新しい知の生産を進めていきたいと思っています。
私たちは現在、人材育成のために二つの具体的な「仕掛け」を走らせています。「次世代形成プログラム」と「アセアン・ローカル・イニシアティブ」です。「次世代形成プログラム」は、若手研究者および実務者の頭脳循環を図るものです。昨年度は、国際公募により二百数十のアプリケーションから優秀な若手研究者を選抜し、二年間の新研究所での帰属を通して、自らの研究推進、国際ワークショップの企画・運営などをお願いしています。「アセアン・ローカル・イニシアティブ」では、主に新研究所の構成員と協働するアセアン地域の研究者、非政府組織や行政関係者のプロポーザルを選考し、自らのイニシアティブによるプロジェクトおよび京都滞在をサポートします。初年度には、採用された研究プロポーザルを携えて京都に短期滞在し、キャパシティ・ビルディングのために新研究所および京都大学の研究者との交流、およびライブラリーリサーチ実施し、二年次年度末には京都での開催される合同セミナーにおいて調査結果を発表し、論文ドラフト(単著/国際共著)を提出していただきます。
アセアン研究プラットフォームは、まさに諸についたばかりです。これからの新しい制度設計を進めて行く所存です。最後に、皆さまのサポートをお願いして、発表を終わらせていただきます。ありがとうございました。
*「日ASEAN協働による超学際・生存基盤研究の推進」Webサイト:https://japan-asean.cseas.kyoto-u.ac.jp/
*「ASEAN研究プラットフォーム」Webサイト:https://japan-asean.cseas.kyoto-u.ac.jp/asean-platform-2/
*本記事は、2017年6月2日に京都大学で稲盛ホールで開催された京都大学東南アジア地域研究研究所発足記念シンポジウムでの講演内容を収録したものです。