cseas nl75 特集1 発足記念シンポジウム 小泉順子

共同利用・共同研究拠点「東南アジア研究の国際共同研究拠点」(IPCR)

1990年代以降、東南アジアにおいてもグローバル化の動きが進展し、中国・インドの台頭による地政的条件の変化や、経済の自由化によるASEAN市場の形成などにより、東南アジア地域に対する政治的・経済的関心や期待が高まると同時に、域内外の人口移動の拡大、民主化の進展、あるいは環境問題、経済格差、感染症、少子高齢化などの新たな課題も顕著となっております。

 こうした課題に応える研究の枠組みの構築をめざし、京都大学東南アジア研究所では、「生産(を重視する研究の枠組み)」から「生存基盤(に注目する研究)」へ、「温帯中心の発展経路」から「地球環境の中心たる熱帯の潜在力を引き出す発展経路の創出」、そして「戦争(に焦点を当てた研究)」から東南アジアの「多様性と共存」に着目した研究をめざし、2007年からグローバルCOE プログラム「生存基盤 持続型の発展を目指す 地域研究 拠点」(2007~2011 年度)を、そしてそれを継承発展させた特別経費事業「東南アジアにおける持続型生存基盤研究」(2011~2016 年度)を進め、幅広い文理融合の方法による東南アジア研究を推進してきました。

 こうした持続型生存基盤研究の展開と成果を受け、また国内有数の東南アジア関連の蔵書を誇る図書室など、過去半世紀にわたり研究所が蓄積してきた研究資源をより多くの研究者の利用に供すべく、2010(平成22)年度から地球共生パラダイムの構築を目指す「東南アジア研究の国際共同研究拠点」としてプログラムを開始いたしました。具体的には、学内外の研究者のイニシャティブのもとに5つのタイプの公募共同研究および出版を進め、2014年度(平成26年)には,若手研究者の育成と支援を推進することを目的に「タイプ6」を新たに加えました。

 2010年度に19課題の共同研究で始まったプログラムは、年々拡大し、6年間に、延べ163課題の共同研究が実施され、最終年(平成27年、2015年)に実施された研究会等の参加者の数は延べ730名近くとなり、うち、学外者が約8割、外国人は3割、女性が3割を占めるなど、国内外の多様な東南アジア研究者との連携・ネットワークが形成されてまいりました。

 こうした成果と活動内容を継承しつつ、昨年度より、第三期中期目標・中期計画期間のプログラムを開始いたしました。昨年度の活動については『年報』を参照していただくこととして、2年目の今年度は、昨年度からの継続課題も含め、あわせて32の共同研究・公募出版が実施されることとなっております。研究対象地域は、東南アジアおよびその周辺10カ国にまたがり、メンバーの所属機関を除く国外協力機関 数も27機関に上っています。人文・社会・自然科学の領域を含む多様な研究が実施されております。

 冒頭、冷戦後の東南アジアをめぐる諸条件の変化に言及いたしましたが、同時に進んだ重要な変化として、長らく欧米中心であった東南アジア研究の多核化、特にアジアの台頭が指摘できるのではないでしょうか。東南アジアにおける東南アジア/ASEAN研究が盛んになる一方で、韓国、台湾、中国など東アジアにおいても東南アジア研究が興隆しつつあります。

 アジアで展開する東南アジア研究との協力を深め、よりアジアの文脈に根差した東南アジア研究を推進するための基盤として、京都大学東南アジア研究所のイニシャティブの下、2013年に「アジアにおける東南アジア研究のコンソーシアム」(略称SEASIA)が設立されました。そして2015年12月、研究所設立50周年を記念して京都で開催されたその第一回国際会議には、ASEAN10カ国と東チモールを含む27か国から530名が参加し、活発なディスカッション・研究交流が行われました。

 このSEASIAの設立を受けて、昨年度より開始した第3期の拠点プログラムにおいては、①国内の東南アジア研究者ネットワークと、SEASIAに代表されるアジアを中心とする国際的な東南アジア研究のネットワークとのより緊密な連携、と②若手研究者の研究成果の国際発信の推進をめざして新たに若手研究者をSEASIAのメンバー機関等が実施する国際会議/シンポジウムなどに派遣する「タイプ VII 」を創設しました。

 今後、大学院生を含む若手支援を入り口に、科研費などの獲得をめざす多様な萌芽的研究へのシーズマネーの提供、そして成果の国際発信・出版に至るまでの一連のプロセスを、種々の研究資源の提供により支援しつつ、東南アジア研究の国際連携を進め、日本の東南アジア研究のダイナミズムと、アジア諸地域の東南アジア研究のダイナミズムとを連動させ、東南アジア研究の推進に貢献したいと考えております。

*「東南アジア研究の国際共同研究拠点」Webサイト:https://ipcr.cseas.kyoto-u.ac.jp/

*本記事は、2017年6月2日に京都大学で稲盛ホールで開催された京都大学東南アジア地域研究研究所発足記念シンポジウムでの講演内容を収録したものです。